会見の終わり
「如何なる存在であるか、とは」
「あいまいな言い方ですまんな。哲学的な意味ではなく、どんな意図を、それが悪意であるか善意であるかを問わずこの街に持っているかということだよ」
「話せば信じていただけるのか」
レンデュライの笑みが大きくなった。
「うん。君はわざわざ学園の入学試験を受け、鑑定を何の妨害もすることなく受けた。つまり俺達を交渉の相手として尊重してくれているんだろう。ずいぶん下手に出てまでな」
「いや、魔法や戦闘技術に興味があったのも事実ではあるが」
「それにしたってもっと有無を言わせないやり方もあっただろう。だが、君はちゃんとした礼儀を弁え、手順を踏んでくれた。そういう奴の言うことなら信じよう」
「そうか」
この男に自分の望みを伝えてみよう。
ジェスターとのやりとり、この世界の人間たちとの交流の中で生まれた我が望みを。
「短期の目標で言えば、竜人族の支持を得たい」
「それは……難しいが、できないでもないだろう。闇エルフと同盟を結ばせたいのか?」
「同盟もさせるが、最終目的としては全ての種族と魔人を融和させる。その第一歩だ」
「こともなげにいうな」
レンデュライは呆れたように言った。
「全ての種族には人間も含むのだよな?」
「もちろんだ」
「聞いていいか。何のためだ?魔王だって人間まで支配しようとは思わないんだぜ」
「それがしが今現在起こし、今後も起こし続ける不可逆的な変化への償いとしてだ」
「あんた自身が起こす変化か……。無意味な問いかもしれないが、それは止められないのか?」
「止められない。止める気もない。止めることが善か悪か判断できない。そして、それによって起こるかもしれない悪をなかったことにはできない。その代償として、それがしはこの世界に調和をもたらそうと思う」
レンデュライは黙考した。
しばらくして顔を上げると、その目は深い海のようなダークブルーに変わっていた。
「俺は君が魔王なのではないかと思っていた」
「闇エルフにはそう思わせた」
「ハルキス伯爵は君が天使だと思っている」
「そう誤解させる言動がなかったとは言わぬ」
「しかし、君はもっと、遥かに危険で異質なものだ」
「否定する気はない」
フェイとアリスが殺気を纏って前に出た。
「やめろ、二人とも」
レンデュライは彼女達が目に入らなかったように言った。
「今日はありがとう。聞きたいことは終わった。クラス分けは追って伝えよう」
「なんでしょう、あの人!ヨーハン様に失礼です!」
「言ってもらえれば殺しますよ。ハイデンベルク様」
戻りながらフェイとアリスが物騒な事を言う。
「あの樹人の言葉は間違っていない。それがしはこの世界にとって異質な目的と意思を持ってここにいる」
我は二人の肩を持って歩くのをとめ、目を交互に見ながら言った。
今言っておかねばならない。
我は煉獄を肥やすことにより変化し続ける可能性がある。
その変化が体の一部なのか、心の変容なのか、さらに重大な何かなのかは事前に知る術がない。
ジェスターに聞いても答えない。確信があった。
つまり、今のこの意思が明日も保たれているかはわからない。
「お前たちがそれがしを殺すべきだと思ったら、殺せ。お前たちにはその権利がある。この意思がもし今とは似ても似つかぬものに変わり果てたなら、それがしを殺してくれ」
かなりの覚悟で言ったのだが、二人は顔を見合わせ、それから、何故かにんまりと笑った。
「愛の告白ですね!」
「死がふたりを分かつまで……お供します」
彼女らに我が意思の行方を託すことはあきらめた方がよさそうだ。




