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入学試験・中盤

雑多な小型レプタイル属とオークがほぼ半数ずつというところか。

実技試験の相手のことである。

オークは簡易な武装をしているが、危険度としては最下位のレプタイルにも劣るのではないか。

闘技場に四面のフィールドが作られ、各フィールドは魔法の壁で区切られている。

フィールドの壁は透明で、闘技場の下から誰でも戦いを見学することが許されていた。

ちなみに私語禁止ではないが、現在対戦している者への露骨な示唆は減点対象である。

我等受験者は呼ばれた順に入場し、敵を倒して出てくる。

それだけのことなのだが、なかなかこれが難しいようなのだ。

かなり良い武装をし、体格のいい者でも苦戦していることがある。

「冒険者はチームですからね」

アリスが訳知り顔で言う。

「援護魔法とか、そうじゃなくても弓や投げ矢で牽制してくれれば戦士は闘いやすいですし、回復薬を持ってても一対一じゃ飲めませんから」

なるほど。

五人のパーティーで十匹のオークを楽に倒せても、同じ条件のソロの冒険者がただ一匹のオークに苦戦することもあり得るということか。

並んでいる我等に一番近いフィールドで、二十代と思しき戦士が低く入ってきた小型レプタイルに脛を強打された。

骨が見えるほどの大怪我で、たまらず引き倒される。

「死にますねー」

フェイが当然のように言う。

しかし戦士の頭上にレプタイルが跨った瞬間、灰色の雲がその頭を取り巻いて現れた。

レプタイルは昏倒する。

死の危険がある場合は魔法で没収試合ノー・コンテストとされるようだ。

レプタイルと受験者は担がれて運び出されたが、受験者は泣いているように見えた。

そう思うと、ローブしか身につけていない受験者が凶暴そうなレプタイルを魔法で眠らせ、悠々と首を掻き切ってあっさり合格していたりもする。

神官もそこまで派手ではないが自分の傷を癒しながら闘えるので有利そうだ。

「魔法が使える方が受かりやすいのか?」

「魔法使いは少ないですから。落としちゃったら損でしょう」

職ごとの格差は当然のことなのだな。

午前のかなり早い段階でフェイが呼ばれた。

「行ってきます!」

「お、おう」

「気をつけてね~~」

あまり気をつけるところはないと思うがな。

しばらく待っていると二番のフィールドにフェイが上がってきた。

やはり亜竜を倒した話のせいか、見学者が多い。すでに合否が決まっている者も見学してもよいようだ。

闘技場の下通路が人でいっぱいになってしまった。

我等は苦心して進み、かろうじて前列に陣取ることができた。

相手はレプタイル属の中でも多少大き目の個体だった。

頑丈そうな顎と対照的に貧弱な前足を持ち、二足歩行している。足のかぎ爪でひっかける戦術を使うのだろう。

フェイはガチンガチンとガントレットを打ち鳴らし、口の両端を釣り上げて笑った。

「ハッハーーーーー!!」

蛮族のような叫びと共にフェイの姿が揺れた。

次の瞬間にはレプタイルの頭が粉々になって吹き飛んでいた。

遅れて噴水のように血が噴きあがる。

返り血を器用によけたフェイが不満そうな顔をしてまたガントレットを打ち鳴らした。

「もー、早いー、死ぬの早いよー」

見学者の中には顔色を青くしている者も多い。

「殴りたりねーから死ぬなとか……」

「どんな暴君なのよ……」

入学前からフェイは「暴君タイラント」という二つ名を頂戴してしまったのだった。


午前中に我とアリスの出番はなかった。

食事は冒険者学園の食堂で取ることができるが、ウルスラ王女が寄ってきて面倒になるのが明白だったため、アリスが買ってきた謎の食べ物を三人で食べることになった。

大きな木の葉で包んであり、中には細かい粒になった穀物らしきものに色とりどりのソースが無秩序にかけられ、蒸した肉が乗っている。

「これもレプタイル肉ではあるまいな」

冗談のつもりで言ったのだが。

「よくわかりましたね~。試験で死んだレプタイルの肉を使ってるそうです。たまに剣のかけらとかが入ってるのはアタリだそうですよ~」

なにがアタリだ。

しかし、細かい粒は小麦粉を固めたもので、ソースも毒々しい見かけとは関係なく爽やかな味でなかなか美味ではあった。


アリスが午後一番に呼び出しを受けた。

「派手にいきますよ~~」

「お、おう」

「気をつけてー」

午前中と変わり映えしないやり取りを経てアリスはフィールドに向かった。

今回も見学者は多い。

午前中に試験に落ち、既にこの場にいない者も多いのだが、他のフィールドの見学者が閑散となるほどの集まりようだ。

おそらくアリスのスキル"見えない腕"が興味を呼んでいるのだろう。

歴戦の騎士であるアリアスもこんなスキルは見たことがないと言っていたし、教官のロトノールとは入学したら調べさせてやる約束をしている。

受験者も真剣な顔をしている。幼い者も多いのだが、やはり冒険者として生きていく覚悟を持った者は目つきが違う。

「胸でっかー」

「色っぽい赤毛のおねーさん……」

訂正だ。貴様ら子供のくせに色ボケしすぎであろう。


「本当にわからんな。アリスを色っぽいなどと」

「え?ヨーハン様は姉さんタイプのぼんきゅっぼんみたいなのは苦手なんですか?」

フェイがなぜか半笑いで言う。

「なんだその謎の形容詞は……」

「じゃ、じゃあ本当は私みたいのが……」

「女はもっと肉づきが良くなくてはな」

「え?」

「それに、あまり凹凸がある体つきは慎みが足りぬと思う」

「肉付きがよくて凹凸がない???」

「貴婦人とはそういうものだ」

「ヨーハン様がわからなくなってきました……」

悩んでいる。

余計なことを言ってしまったかな。子供とはいえ、婦人に体型のことなど、言うべきではなかった。

(作者注:ハイデンベルク氏の女性の好みはエヴィアやアルカディアで通用するものとはかけ離れています。彼の価値観では女性の美は寸胴に似た起伏のない体型、小さい目鼻立ち、穏やかな態度、などにあります)


アリスの試験はあまり盛り上がらず終わった。

相手が多少知能のあるオークだったのがよくなかったのであろう。

大盾と双剣を振り回すアリスにおびえたままフィールドの壁にはりついて動かず、ついにノックダウンとしてアリスの勝利が宣言されたのであった。

「ふざけてます!壁ごと斬ってやればよかったのに」

「ま~いいってことよ~」

フェイは憤慨していたが、アリスは"色っぽいお姉さん"として声援をおくられたことで満更でもない顔であった。


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