入学試験・前半
当日は快晴となった。
ほぼ屋内でのみ行われるため、あまり天候は関係ないが、最優秀者が上級生と模範戦闘をすることも稀にあり、そちらは開放型のコロシアムで行われるらしい。
だが、そうした模範戦闘は入学者が飛び抜けた力を示した場合に限ってのことで、ここ数年は行われていないそうだ。
今年の入学志願者はおよそ八百人。
カートとリヴンを見て勝手に少年少女が多いのだと思っていたが、かなり年齢が行った者も少なくない。
試験に年齢制限、回数制限はなく、試験料さえ払い、最低年齢を満たしていれば、歩行さえ不自由な老人でも受けるだけは受けられるのだそうだ。
たまにそれまで教育に興味がなかった一流冒険者が一念発起して入学してくることもあるのでそれを考慮しているという建前だが、同じ者から何度でも試験料を絞り取るための仕組みとしか思えぬ。
事実、失敗者が再度、再再度の受験で受かる確率は年を追うごとに減ってしまうらしく、軽快な動きをする若者に比べ、比較的年長の者たちは悲壮な覚悟さえにじませているのだった。
「合格者は毎年大体百五十人。今年の倍率は平年通りね」
ウルスラ王女が何気なく近づいて話しかけてきた。
「これは殿下。ご機嫌麗しゅう」
「そういうのはもういいよ。アリアスも帰したし」
片膝をついて礼をしようとした我をウルスラ王女は押しとどめた。
そう。ウルスラ王女はお目付け役としてついてきていたアリアスをどのように説得したのか追い返すのに成功していたのだ。
「これからは競争相手だよ!」
笑うウルスラ王女の背後でエルネシアの闘気が湯気のように立ち上っていた。
しかし王女といえど、試験は一人で受けるものであろう。受かるかどうかは見ものであった。
要項通り試験は筆記から始まった。
冒険者は頭脳労働とは言えない。頭は良いほうがいいが、極端に言えばパーティーに一人頭脳派がいればそれでなんとかなるのだ。
そうした職業であるゆえに、筆記試験の水準は恐るべきものだった。
名前を書き、四択で受けたい依頼を丸で囲む。それを三題。
一問目は次の通りである。
「ドラゴンロードの宝物を盗んできます。報酬半ターラー」
「一日でアルカディア中の洗濯物を洗います。報酬半ターラー」
「茹で毒カエルの味見を一日やります。報酬半ターラー」
「ゴブリン一匹を倒します。報酬百ターラー」
こんな試験に落ちる者などいるものか。
だが、この問題に試験時間一時間をギリギリまで使った者がいるのも事実。
「いや、わかってますよ?百ターラーが多いのは!?でも報酬が多いからっていい依頼とは限りませんよね!?」
アリス。
この問題はな、そういうことを問うているのではないのだぞ。
実を言えば、あの問題でさえ間違った選択肢を選んでしまう者はいる。
しかし、これは「受けたい」依頼なので間違っていても不合格にはならないらしい。
筆記試験後の周囲のひそひそ話を総合するとそういうことだ。
名前が書ければいいということか。
筆記試験のことは頭から早急に追い出そう。
次は体力測定か。
なにしろ人数が多く、不正を許さぬようにやっていると時間がかかるのでこの科目はごく単純なものだ。
そもそも合格すれば鑑定が行われるので、ここで不正を行う意味は薄い。
走る。それだけだ。
開始時間までに実技試験の会場まで到着しておればよい。
町中なのでほかの乗り物、すなわち馬などに乗ることは可能かもしれぬがとくに監視はされていない。
好きにすればいいと言わぬばかりだ。
そういう機転、用意も含めて冒険者ということだな。
機転など利かすつもりもない我等は普通に走って試験会場に着いた。
フェイとアリスが飛ばしまくり、それについて行かざるを得なかったので順位は一位である。
途中で魔力光で全身を包んだエルネシアが肉薄してきたが、「姫はどうした」と聞くと真後ろに戻っていった。バカめ。
この時点で脱落者はほとんどいない。
筆記は即時採点されているが、あれで落ちるものなどいまいし、体力測定もそんなに厳しい制限時間が設定されているわけでもないのだ。
あとは実技試験を残すのみだが、これでどうやって受験者を百五十人に絞るのか。
しかし、そんな疑問は実技の見学をしていると氷解した。




