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忍び訪れる変容

アリアスが連行した賊を取り調べたが、単にこの周辺を縄張りにしている盗賊が欲心を出しただけに過ぎなかったようだ。

この山道を含む裏街道はエヴィアと敵対するベーメン王国の影響下にあるため、その配下が襲撃をかけてきたのではないかと疑うのは自然な推測であるが、アリアスはそれはほとんど心配していないようだった。

「ここで殺害ないし誘拐した場合、ベーメンの関与は決定的なものになり申す。そこまでする気はかの国にはありますまい」

「領土を巡る小競り合いと王族の誘拐は別問題と?」

「然り。争いは争いとして、エヴィアとベーメンは連合国でもある。それに、アルカディアには各国が冒険者を送り込んでおり、一種の暗黙の不可侵条約とでもいうべきものがござる。国から離れた王族・貴族にやたらに攻撃をかけられたくないのはどの国も同じであるゆえ」

「それにしては盗賊を放置するなど、うかつではござらぬか」

「かような弱敵も退けられねば、冒険者たる資格などなし、ということでござろうな」

アリアスは焼けた鉄串を盗賊の頭に当てながらこともなげに言った。

やはりこの国、この地のやり方はよくわからぬ。

盗賊に似せて精鋭を送り込み、目障りな者どもを葬る。または実際に盗賊に殺されても謀殺されたと言い張るなど、いくらでもやりようはありそうなものだ。

つまり、エヴィアとベーメンの争いというのは本気のものではない。

戦う時は無論本気なのだろうが、積もり積もった憎悪が感じられない。

外国に対して一丸で当たる必要があるというのもその理由であろうが、彼らの心の奥底には魔族への無力感と恐怖がある。

常に、こんなことをしている場合ではない、と考えてしまうのであろう。

「それでも大同団結できぬ。しょせん人の業か」

「何ぞ仰せられたかな?」

盗賊の情けない悲鳴に我の呟きはかき消された。

「いや、特に何も。こやつらにこれ以上何を聞いても無駄であろうが、いかがなされる」

「近くの町を領する貴族とは何度か戦ってよく知っておる。喜ばれるであろうから首を届けてやろうと思うが」

そう言うとアリアスは部下に全員を首にして胴体は谷に捨ててくること、近くの出城に領主宛にしたためた書状と首を届けることを言いつけた。

「くだらぬことであったが、よき進物になるであろう」

アリアスは絶望の呻きを漏らす盗賊どもを眺めながら人のよさそうな笑みを浮かべた。


既に明け方近く。

眠らぬ我は再び天幕の外に気配を感じた。

ただし、これは盗賊などではない。

天幕の外は一面の霧に包まれている。

比較的乾いた気候、峠近くの高地、風の通り道でもあるこの野営地でこんな霧が出るはずはない。

歩哨に立つアリアスの部下達の声もせぬ。

「召喚はしていないぞ」

我は霧に向かって呼びかけた。

霧の向こうから誰かが歩いてくる。

骸骨ではない。

盗賊のかしらであった男が、片手に自分の頭を抱え込み、大仰なピエロの礼をする。

「ジェスター。悪趣味であるぞ」

「悪趣味は僕の趣味だからねえ。おはよう、我が主君」

生首が生き生きとした笑みを浮かべる。

「なかなか呼んでくれないからこっちからきちゃったよ」

「MPを大量に消費、しかも永久に。呼ぶべき理由が見つからぬ」

「損得で物事を考えちゃあいけないな。愛する臣下に会うのに理由、いる?」

「貴様を愛すべき理由も全く見つからぬ」

「おお……主君は非情なりき……」

「いい加減にせよ。何の用だ」

放っておけばいつまで戯れ言を続けるか分からぬ。

「ひどいねえ。プレゼントを持ってきたのに」

ジェスターが生首でジャグリングをしながら言う。首が手品のようにその手の中で増える。

嫌な予感しかしない。

「貴様からの贈り物など受け取れぬ。何が入っているか知れたものではない」

「ごめん。これ受取拒否できないんだ。悪いものじゃないからさ」

「信用できるか!」

「煉獄の魂を増やしたご褒美だからさ、快く受け取ってよ」

聞き捨てならないことを言いながら生首を一つ、放ってくる。

よけようとしたが、できぬ。

それはジェスターの手を離れた瞬間、白い光になって我を撃った。

痛みはなく、奇妙な衝撃が左手に抜ける。

そのまま、我は意識を失っていた。


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