武器がない!
"混沌の渦"として活動をすることになった我等であるが、いくつか重大な問題に即座に直面することになっていた。
我について言えばステータスの欺瞞がこれ以上できぬ、ということ。
ハーフデーモンと混沌の渦、どちらが多く恐れを呼ぶかは議論があろうが、隣人としてふさわしい者ではないことは確実だ。
早急になんとかせねばならぬ。
ハルキス伯爵か、いっそオスタードにでも相談すべきか?
そしてさらに喫緊の問題がある。
今までの戦闘方法が使えないことだ。
武器汎用が使えなくなっている。
試みに宿の裏庭で剣を振ってみたが、アリスどころか、フェイにすら失笑されるようなひどさだった。
剣はまあよい。事実上使っていないので銀貨十五枚であつらえた重石にすぎぬ。
しかし、武器汎用は素手攻撃にも適用されていたらしい。格闘術などろくに覚えたこともない我が戦えていたのは能力の高さもあるが、この技能のおかげだったのだ。
少々気恥ずかしかったのでフェイとアリスを部屋に戻らせてから蹴りと突きを何度か放ってみた。
ひどいものだ。
素人以下というべきだろう。
力と素早さはあるので、当たればかなりの威力であるが、正直大ネズミにすら当たる気がしない。
小迷宮で確実に勝てる相手は大ナメクジくらいのものだ。
目の前が暗くなるような思いで部屋に戻ると、アリスとフェイが妙な顔をしている。
こやつら、覗いていたな。
「これをやろう」
アリスにゴランの店であつらえた剣を渡す。
「いいんですか?ハイデンベルク様は?」
「事情があってな。職業が変わって装備できなくなった。アリスは力が上がっている。今までの剣では壊してしまうであろうから、当面この剣と例の聖銀鍍金の小剣を使え。それに盾も用意せねばならぬ」
「両手ふさがってますけど……」
部屋の中で両手に持つな。
「技能をみろ。"見えない腕"だ」
「それはみましたけど、そんなものないんですよ……」
「見えない腕だから見えないのは当たり前だ。盾を装備すればいいのだろう」
「実感ないなあ」
「あ、じゃあこれ使ってください」
フェイが鞄から小ぶりの盾を出した。
片手で敵の斬撃をそらすように使う軽い盾だ。手首に固定してもよいし、手で持ってもよい。
「敵の攻撃がきついときに使ってたんですけど、最近あんまり出番がなくて、もう使うこともないと思うので」
「ふーん。ありがと」
首をかしげながらアリスが盾を受け取った。
両手で剣を構えながら。
盾は宙に浮いていた。
「お?おおおおお??背中がぞわぞわするぅ!!」
「どんな感じだ」
「背中から何か生えてきたような感じです……盾を握ってます」
「動かせるか」
「ん?あれ、どうやるんだろ……」
飾ってあった花をちぎって投げてみる。
普通にアリスの頭にあたった。
「何するんですか!」
おかしいな。
「フェイ。アリスの顔を殴れ。手加減するなよ。アリスは防御するな」
「「ええええ?!本気ですか?」」
我が頷くとフェイは困った顔になりながら構えた。
「いきますね……あ!」
カツンという音を立てて拳が盾に弾かれた。
「危険な攻撃だけを自動防御するのだな。優秀な能力だ」
「すごいです!」
「うれしいけど、その度に背中がムズムズします……」
それくらい我慢しろ。
「それからフェイもこのままという訳にはいかぬ」
「剣持ってますよ?」
「恐らく使えなくなっている。ステータスに剣術がないからな。戦い方を根本的に変えないといけないだろう」
「そんな……新しい剣、買ったばっかりなのに……」
うらめしそうな顔でこちらを見るフェイ。
「これも我の責任だ。装備は買いなおしてやるから心配するな」
「はい……もったいないですけど」
剣を撫でながら頷いた。
一度ゴランの店に寄るべきだろう。
ステータス鑑定はなんとか誤魔化すしかなかろうな。




