もう一人の眷属
あらましを話した後のアリスの反応は予想外のものだった。
怒るか、泣かれるか、最低でも非難されると思っていたのだが、思ったよりも平静だ。
どことなくうれしそうにも見える。
「そんな勝手な・・・・ダメですよ・・・強引すぎます・・・・」
何か文句を言っているのだが顔がニヤついているのだ。
「すまなかった。それがしにも思いがけぬ成り行きでな。解放する手段がないか、調べてみるつもりでいる。もちろん日常生活で何か束縛したりするつもりはない」
一応謝罪し、約束はしたのだが、あまり聞いているようには見えない。
聖戦士とやらになってもアリスはアリスということか。
逆に安心してしまった。
「何か失礼なこと考えてませんか?」
じろっとアリスが睨んできた。
勘がよくなる能力はなかったはずなのだが。
「フェイちゃんって言うのはこの間パーティーに入るって言ってた子ですよね?」
実はもう一人眷属がいるという話をするとアリスは難しい顔をした。
「そうだ。あのあと面倒なことにはなったが、三人目として迎える話は途中で終わってしまっていたな」
エルネシアとの勝負も、彼女が目を覚まさないうちにギルドに呼ばれてしまったために正式には終わっていない。
その決着を懸念しているのか、と思ったが。
「あたしを脅かす存在になりかねない・・・若いし・・・ちょっとかわいいし・・そもそも横から入ってくるのは反則でしょ・・・・でも胸はあたしの方が大きいからその辺はアドバンテージ・・・・」
何の心配だ。
しかし先ほど我の考えがアリスに読まれたように、眷属と主人には一種の共感が働くのかも知れない。
アリスの場合、単に心の声がだだ漏れになっているだけ、ということも十分に考えられるのであるが。
どちらにせよ、フェイには会いに行かねばならない。
眷属に登録されている以上、アリスと似たような変化が起きているに違いないのだ。
その時、となりの部屋の扉をノックする音が聞こえた。
つまり、我の部屋だ。
「サリシアか?」
我はアリスの部屋の扉から顔を出してみた。
扉をノックしていたのはサリシア。だが、その後ろにはフェイとエルネシアがいた。
「ヘー。昼間から女性の部屋に入り浸りとは、ちょっと幻滅ですねー」
サリシア。その棒読みはやめろ。
「なにもいかがわしいことはしていな「不潔な!なあフェイ!みたろ!こいつはこういう奴なのだ!色魔め!」」
エルネシアがフェイの肩をガクガクと揺さぶって此方を指差す。
フェイはといえば、謎の微笑を浮かべぶつぶつ言っている。
「浮気・・・・・そんな・・・・でも男の人って一人じゃガマンできないっていうし・・・・私ががんばればきっと正妻の座を・・・・・」
やはりこれは心の声ではないか。
アリスが鎧をつけたまま我の後ろから出てきたので、いかがわしいことをしていないという弁明は一応受け入れられた。
ちなみに、アリスは昨日から着替えていないので少々匂ったが、濡れ衣を晴らすことができたのでよしとしよう。
「で、何の用かな。こちらも用事があったので都合がいいが」
眷属の話はできればフェイだけとしたいのだが、エルネシアが邪魔だな。
「フェイのことよ。あんたのパーティーに入れるって話だったでしょ」
エルネシアが言った。不本意と顔に書いてあるぞ。
「意外だな。反対すると思ったのだが」
「しょうがないでしょ。勝負に負けちゃったし、あんたが強いのはわかったわよ」
ただし、と下から半目で睨み上げてくる。
「ふしだらな行為は禁止よ!異性との交遊にはフェイは若すぎるわ」
何を言っているのだ。
後ろで腕を組んで頷くな、アリス。
泣きそうな顔をするな、フェイ。
面白がるな、サリシア。
お前たちもう少し真面目にやってくれ。




