オスタード
人間ではない。
あり得ない。
聖堂に入ってきた男を見た時からそう思っていた。
人間は時に強者を生み出す。
ハルキスへの要求のために倒した冒険者パーティーもなかなか強かった。
リーダーの魔術師は魔族の私が見てもかなり洗練された魔法を使い、他のメンバーも普通の闇エルフなら苦戦するほどの強者だった。
しかし所詮はそれまでのこと。
人間は個々ではなく集団としての強さに秀でる。
魔族が人間に狩られることもあるが、それはその集団としての強みを見誤るからだ。
私は人間を軽く見てはいない。
だが、単独の強さで魔族が人間に遅れを取る事態などというのもまた、ない。
ではこの男は何か。
私の"踊る剣"を避けようともしない。
悪夢のような意匠の黒い鎧・・・・・あんな鎧があるものか。
聖堂に入ってきた時の奴はまだ人がましい姿をしていた。
だが、今は。
巨大な拳が私の魔法障壁にすさまじい勢いで叩きつけられる。
変身してから言葉は発していない。
ガラスを擦り合わせるような耳障りな笑いか、怒号のような叫びを発しているだけだ。
ヨーハン・ハイデンベルクと名乗ったこの男は、人間ではない。
しかし、魔族でもない。
魔族なら通じるはずの仲間意識を感じない。
これは異物だ。
世界にとっての異物なのだ。
魔王よ、救い給え。
私の祈りを嘲笑うように、ハイデンベルクの金色の目が愉悦の色をたたえた。




