混沌を呼ぶパーティー募集
アリスがあれほど野心の強い女だったとは思わなかった。
しかし、この世界を生き抜くにはあの種の貪欲さが必要なのかも知れぬ。
少なくとも斥候兵の必要があるという提言は肯けるものだった。
パーティー依頼の記された紙束を一枚一枚繰っていく。
「なかなか条件に合う者はいないな」
「どんなメンバーをお探しなんですか?」
フェリシアが手元を覗き込みながら聞く。この紙束を持ってきたのは彼女だ。
「そもそもこちらが選んでも先方がいいと言うかはわからぬがな」
「そんなことはないでしょう。わざわざハイデンベルクさん宛てにパーティー依頼を出してるんですから。」
「この束が?全部そうなのか?」
「はい。ハイデンベルクさんに持ってきたんですから当然そうですよ」
てっきりパーティー人数に不足がある者がだした依頼の総数だと思っていた。
左上をとめている皮ひもの長さが足りなくなりそうなほどの量だ。
「いくら六級に上がったとはいえ、多すぎるのではないか?」
討伐報酬の全てを放棄するという条件が多いのも気になる。
「最速で六級ですからね」
それに、と後ろにいるアリスを見る。
「足手まといと取られかねないメンバーを連れてですから」
アリスが縮こまっているではないか。やめてほしい。
「それについては……」
「わかってます。アリスさんも見違えるほどの成長振りです。そう見られているということは忘れて欲しくないだけですよ」
「忘れてません。だからこそ三人目を入れたいんです」
アリスが思いつめたような顔で言った。
「……なるほど。独占するつもりはない、という事を示すわけですね」
「はい。私だけではハイデンベルク様の力になれませんから。今は」
「今は、ね」
フェリシアはにっこりと笑った。
「そういう覚悟のある人は、好きですよ」
「ありがとうございます。それで新しいメンバーなんですけど、斥候兵を入れようと思うんです」
「7.8階以降は罠が危険ですからね。でもアリスさんが斥候兵を兼ねるという考えもありですよ?どうしても斥候専門の人を入れると戦闘力が下がりますから」
「私は不器用ですし、前衛に専念したいんです」
「ハイデンベルク様をお守りしなくてはいけませんから」
アリスは顔を上げてはっきりと言った。
「でもハイデンベルクさんの方がずっと強いし硬いんですよ?」
「それでも、です。お守りしたいんです。命に代えても」
「……いいですね!私もアリスさんを応援したくなってきました」
若い娘に守ってやる宣言をされた我は話から置き去りにされていた。
「そうなると選べる人は少ないですね」
盛り上がっていたアリスとフェリシアは冷静さを取り戻すと条件に合う冒険者の少なさを確認した。
「多人数はだめですね。逆に足手まといになるでしょう。最重要でハイデンベルクさんを守るなら他の人への攻撃をそんなに気にしていられません」
「できれば一人で、自分の判断で押し引きのできる人がいいです。信用できることは大前提です」
「そこがどうしたってネックになりますよね。級を上げようとして必死になっている人が多いわけですから」
「級が高めで、短期に絞った方がいいのかな……」
その時いきなり机の脇に頭が生えた。
「フェイちゃんじゃだめなんですかねえ」
メイドのヴェンナ。土下座便所掃除からの華麗なる復活であった。
フェイの知り合いなのか。
「フェイはパーティーを組んでいたようだぞ。育てるのはかまわぬが、向こうが望まないのでは仕方がなかろう。こちらも今更他に加入はできぬしな」
「かまわないんですか!?」
もう一つ頭が生えた。
「もうちょっと待っててくださいよ、フェイちゃん」
ヴェンナが不満そうに言う。
「かまわないんですよね!聞きましたよ!入れてください、ヨーハン様!」
「ちょっと待て、自分のパーティーはどうしたのだ」
「フェイから離れなさい!」
今度は何だ。
見覚えのある銀色の髪の女がギルドホールの入り口でこちらをにらみつけていた。
「お姉さま!止めないで!」
「フェイ!あんたはこの悪魔に誑かされているの!悪魔よ去れ!」
女は聖印らしきものを掲げて祈り叫ぶ。
何がどうしたというのだ。




