アリス
六級冒険者。
あたしは六級冒険者になった。いや、ならせてもらった。
冒険者の町ハルキスでも上澄みの部類に入る中堅冒険者。
大抵は元騎士とか、貴族とかの"らしい"来歴をもってる人たち。
とても手が届かないと思ってた。
ハルキスの冒険者の大半が八級にさえ上がれない。
田舎から英雄になる夢を持って、そうじゃなくてもなんとかたまに贅沢な食事ができるくらいになろうってハルキスに来る冒険者志望の子たちも一月もすればわかってしまう。
冒険者に夢なんかない。
田舎の村で多少強いって言われても、迷宮の怪物にはぜんぜん通用しない。
あたしらみたいのが武技や戦闘技能を覚えるには死ぬ覚悟が必要で、でも本気で死ぬ思いをしたら大怪我じゃすまない。
それじゃ結局浮かび上がる目を掴めない。
臨時パーティーに何度も加入を繰り返してたのはこういう現実をブッ壊してくれるような何かを待ってたんだと今は思う。
自分で強くなることをあきらめても夢をすてきれなかったみっともないあたし。
その前に、"何か"は現れた。
バカみたいな経緯で奴隷にされそうになって、自棄になって剣を抜いて、でも切り抜けられるような気はぜんぜんしていなかった。
よくてブン殴られて奴隷。
悪ければ死ぬ。奴隷商人に斬り殺されて死ぬ。
目の前が真っ赤に染まってた。もうだめなんだ。
そんなあたしの前に、救いは現れた。
ヨーハン・ハイデンベルク様。
黒い鎧を着た偉丈夫。神聖魔法の使い手。
彼はあたしの問題を文字通りブチ壊してくれた。
この方は普通の人間じゃない。
溶けた黄金の色に燃える目、人間離れした、桁の違う力。
みんな言ってる。
あたしもわかってる。
でもそれがどうした。
「我を崇めよ」
ああ、ハイデンベルク様。
あなた様を崇めます。
だから。
あたしを捨てないで。




