三人目を探そう
大迷宮での最初の遠征を終えた我等はハルキスの地表に戻ってきていた。
今回は依頼を受けていないが、蜥蜴人の鱗や牙、粗製の槍とビホルダーの目の一部は買い取り価格がついており、いくばくかの硬貨を与えてくれた。
「ハイデンベルク様、お話があるんですけど」
宿に帰る途中でアリスが真面目な顔で言った。
「何か」
「食事でもしながらお話をしませんか」
「かまわぬが……」
何の話だろう。
考えられることとしては、奴隷商からの嫌がらせか。
いや、パーティーを組んで以来ほぼ一緒にいるがそれらしき影すら見ていない。考えにくいだろう。
それとも、と思う。
単に年頃の娘が荒事稼業に疲れたということかも知れぬ。
このところの稼ぎは順調であるし、何より魔族の残した品がある。
分配してもつつましい家を持つに十分であろうし、約束のある男でもあれば、引退して家庭を持つのは早い方がよい。
そうだ、何も我の如き呪われた者と何時までもパーティーを組んでいる必要などないのだ。
「新生活にはいろいろ物入りであろうな」
料理が運ばれてくる間、なかなか話し出さないアリスにそれとなく水を向けてみる。
「は?いや、新生活っていってもサリシアさんが色々面倒をみてくれてるんで、何も困ってはいませんけど」
そうか、サリシアめ、なかなか気が利くではないか。
やはり我のように男で、しかも異形の者にはこまごましたことは相談しづらかったのだろう。
一抹の寂しさもあるが、むろんまっとうな生活が待っているのに冒険者などいつまでもやっていていいものではない。
「新居は見つけたのか。もし資金が足りぬようであればそれがしの取り分は融通しても一向にかまわぬ」
「は?新居?」
アリスが目を白黒させている。
「なんだ、夫が用意してくれているのか。なかなか甲斐性のある男ではないか。よかったな」
この身は異形の獣と化していても、婚姻と安定を旨とする神の教えは骨身に染み込んでいる。
このように如才ない言い方をすれば、緊張している花嫁の気もほぐれ、話をしてくれるようになるというものだ。
我は結婚の相談を受けた村の司祭のような気分になっていた。
しかし、アリスの表情がおかしい。
心底呆れたような顔をしている。
また何かずれたことを言ってしまったのか。
「ハイデンベルク様……何か勘違いしてると思います」
うむ。そのようだな。
「三人目を探すべきだと思うんです」
アリスは冒険者を辞めるつもりなどさらさらないのだそうだ。
六級では終わらぬ、もっと上を目指したいと。
そのためには罠の発見解除ができる三人目の仲間が必要になってくると、力説するのだった。
人の常とは言え、あれだけひどい目にあっているのに貪欲なものだ。
「今はあたしの人生に訪れた最大のチャンスだと思ってるんで」
逃がすつもりはありませんよ、とアリスは目を輝かせて笑う。
「大迷宮の中層以降は罠を増設する専門の怪物がいるみたいなんです。少人数パーティーがつまづくのも罠からが多いって。あたしたちは戦闘力も魔法も十分だと思うので、そのへん妥協してもいい斥候兵が必要だと思うんですよ」
「しかしそんな有能な者がわざわざ仲間になってくれるものかな」
「何をいってるんですか。ハイデンベルク様のパーティーですよ?相手するのが面倒なくらい来ますって!」
だから有象無象をより分けないと、と言うのだ。
「あたし、ハイデンベルク様の力になりたいんです。仲間にしてくれて、強くしてくれた恩を返したいってだけじゃなくて、はっきり言えば上を目指すために必要だから」
「あたし、ハイデンベルク様に会えなかったら八級も上がれるかどうかあやしいくらいでした。自分でもわかってたけど、ほかにできることなんかないし、田舎にも帰れないし」
「でも今は自分が強くなってる実感があります。手放したくないんです」
アリスははっきりとした強い声で言い、まっすぐに我を見た。
真剣に考えねばなるまいな。




