六対十二翼②
MPが補充されるのにかかった時間は以前昏倒した時よりはるかに短かった。
最大値が増えているために回復力も上がっていると見るべきだろう。
空洞に再突入すると蜥蜴人が増えていた。
かなり体格がよい。
戦士種なのだろう。
斥候種も追加されている。
魔法の光を撃ってくるビホルダーを警戒しながら非道の翼を広げた。
MPの消費は1000きっかり。
全身が紫色の光に包まれ、そのまま浮き上がった。
「登録された場所に瞬間的に移動します。登録場所を選んで下さい」
「現在のところ登録された場所はありません。登録を行ってください。現在の最大登録数は四箇所です」
予想外の能力だ。
便利ではあるが、今の状況には全くといっていいほど役に立たない。
こんなところで宙に浮いていてははいい的だ。
急いで翼を畳むが、ビホルダーの魔法の光が足に命中してしまった。
七つの効果のうち一つが適用されるというが、今回は麻痺のようだ。
足がうまく動かない。
蜥蜴人が槍を手に駆け寄って来ている。
もう実験は十分だ。
『鋼鉄の獣』
低くつぶやく。
口が前にせり出し、四肢が太さを増す。背中の筋肉が波立ち、滑らかな丸刃が列をなして突き出た。
旧時代に造られた半機械半悪魔の戦士ジャガーノート。
我はその本性をあらわしていた。
声帯が変形して今までのように言葉が出せない。
ガラスをすり合わせたような叫びが空洞を震わせた。
悪魔騎士とは比べるべくもない下級デーモンで、オールドワールドでは様々な用途に召喚・使役されていたが、ジャガーノートは本来極めて危険な生き物である。
叫びは魔法の力を帯びており、それに囚われた者は各種状態異常を併発して行動不能に陥る。
蜥蜴人は戦士種を除いて全て恐慌状態になり、我先に逃げ出している。
戦士種はさすがに恐慌は耐えたが、恐怖を感じているのがわかる。
ビホルダーは逆にのたくりながらこちらに移動しようとしている。
狂戦士化しているようだ。
最もやっかいな魔法の光線が撃てないのではもはや敵ではない。
近寄って触手を引きちぎり、その目玉を踏み潰す。
蜥蜴人の戦士は最後まで恐怖を振り払えず、壁にはりついていた斥候種と共に一撃で床のしみになった。
恐慌の叫びはアリスには効果をあらわしていなかった。
距離があったためか、それとも今回取得したという技能:豪胆の効果だろうか。
「心配しますから何をやるかくらいは教えてください!」
むしろ怒っているようだ。
空を飛んだと思ったら変身したのだから、あまり戦士の戦いぶりとしては普通ではない。
「わかった。初めて使う技能のときは先にそう言おう」
次はお前が戦ってみないか。
ビホルダーは再出現にしばらく時間がかかるようだ。
蜥蜴人ならばアリスで十分だろう。
そう言って前に行かせると、何度も「何かやるときは言って下さいよ!」と繰り返しながら空洞に入っていった。
後ろばかり気にするな。
敵は再度現れた、斥候種蜥蜴人三匹。
「がんばれ、応援するからな」
そう言ってから『邪悪なる祝福』をかけてやった。
「我を崇めよ。忠実なる者共に我が力を授けん」
声がした。ぴくりとこちらをむいた所をみるとアリスにも聞こえたことだろう。
「ちゃんと言ってっていったのににおおおおおいいいいいい」
後半は言葉になっていない。
剣が勢い余って手から吹っ飛んでしまっている。
治癒の準備をしておこう。
結果から言うと治癒は必要なかった。
怪我はしたのだが祝福のせいで自然治癒力が桁違いに上がっており、見る見るうちに傷がふさがってしまうのだ。
筋力も上がるために武器は使いにくくなるが、素手で十分に強い。
なぜ泣く。
「華麗な双剣の女戦士のはずだったのに、なんでこうなったのよぉぉぉ」
噛みつきで蜥蜴人を倒したくらいで大げさな。
「それより顔の血を拭け。どこの蛮族の戦士かと思われるぞ」
愚痴が倍になった。
せっかく祝福してやったのに文句の多い奴だ。




