茶会、姫君付き
「フィリフェインと名乗っておりました。銀色の目を光らせて瞬間移動の能力を使いましたが、それが姉上から奪った魔法かどうかはなんともわかりかねます」
詳細は話せないが十分苦しんで死んだ、と伝えると伯爵はいくらか満足そうに見えた。
「一度だけ姉が魔法を使うのを見たことがあるが、その時目が銀色に光っていたのを思い出す。ありがとう。余人はともかく、私にとってはそれで十分だ。君が姉の護衛についていればな。言っても詮無いことではあるが」
ハルキス伯爵は繊細な手つきで自ら茶を淹れてくれた。
「呪いを受け、鎧を脱げぬ体ゆえ。ご容赦願いたく」
「鎧を常に脱がないというのは報告を受けている。これはそちらのお嬢さんにだよ」
「は・・はい!」
アリスはぎこちない手つきで茶を飲んだが、味などわかっているとは思えなかった。
「フィリフェインの角の事なのですが、他の魔族が取り返しに来るなどということはありませんかな」
伯爵はかすかに顔をゆがめた。
「魔族というのは強力だが個人の行動を他者が掣肘することを忌むのだというよ。他の地で魔族が討伐された時も遺品を取り返しに来たりした記録はない」
それに、と言葉を続ける。
「もし取り返しに来た魔族がいれば君が殺してくれるだろう?」
ハルキス伯爵は昏い笑みを浮かべた。
「ウルスラ嬢が君に会いたがっていたよ」
どこか思いに沈んだ風の伯爵は我等に中庭に行くように指示した。
部屋の隅に控えていた老人が案内する。
「有難う存じます」
廊下を歩きながら老人が小さな声で言った。
「旦那様はこの20年というもの、シェリア様・・・お姉さまの事をずっと気に病んでいらっしゃるのです。これでお気持ちに一段落をつけてくださるといいのですが」
我は曖昧にうなずいた。
「ところで、ウルスラ嬢はハルキス伯爵の妹君なのかな」
「ご存知ありませんでしたかな。ウルスラ様は王女にあられますよ。護衛のアリアス殿とご一緒に滞在なされておられます」
こともなげに老人はいう。
「今上陛下は大変、こう申してはなんですが御子の多い方でしてな。かさむ一方の宮廷費をいくらかでも浮かせるためにお子の母君と縁のある貴族家に滞在することを推奨しておられるのです」
この国もなかなかに病根を抱えているようだな。
姫君・・・・ウルスラ王女は相変わらずだった。
「エヴィア語が上手になったね!」
「恐縮であります」
「顔、見せて!」
「傷があると申しましたが、実は呪いがかかっておりまして、脱げないのです」
「えええ~~つまんない!手を兜につっこんでもいい?顔の形がわかると思うの!」
さすがに侍女が止めに入った。
「はしたのうございますよ。殿方のお顔を触るなど」
「いいじゃん、退屈なんだもん!」
「お勉強が残っておりますから、退屈などと仰ってはいられませんよ?」
「あ~~~ 僕もヴィアンにい様みたいに強ければ勉強とかしなくてもいいのになあ」
「王太子殿下のお噂はそれがしのような者でも聞いておりますぞ」
「にい様はとっても強いんだよ!僕もそのうちにい様のパーティーに入れてもらうんだ!」
英雄願望があるのか。
か細い腕は剣どころか木の杖にすら耐えそうもないのだが。
「ね!迷宮の話、聞かせて!」
それが目的か。
「君って魔族を倒したんだよね?僕も君みたいに魔族を倒したらにい様だってすぐにパーティーに入れてくれると思うんだ!」
やれやれ。身近なパーティーの話でもしてやるか。
「この者はアリスと申しまして、最近それがしとパーティーを組んでおります・・・・・」
アリスの修行の話が終盤になるころにはウルスラ王女の冒険熱はかなり冷めていたのだった。




