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落下
白一色の視界が暗転し、目の前に蒼穹が開けた。
空を見上げている。
ああ 青い。
ゆっくりと落ちていく。
視界の端に太陽が入った。この世界にも太陽はあるのか。
時間の感覚がもどってくる。
刺すような風を感じる。
雲が凝集して雨になるように、我は、凝り固まった。
地上を見ようと体をひねったがうまくいかない。
何度も見たことがある。
地獄界や天界に住むエーテル生命がより低次の物質界に顕現した場合、およそ数十秒の適応時間がある。
強力な存在ならほとんど影響は見えないが、小鬼などの小物であればその期間は指一本動かせぬ。
いったん地獄界に堕ちてエーテル化している我にも、その法則は適用されているはずだった。
落ちる先を見ることもなく、死ぬ。
この高度から叩きつけられれば、下が海か湖であっても粉々になることであろう。
それもよい。もう一度空が見られただけでも望外の幸せというものだ。
我は眼を閉じた……眼を?
眼球を抉り出して偽の主に捧げ、代わりに授かった超自然の視力は、瞼を閉じることができない。
どうなっている?
この世界に叩きつけられた。