パワーレベリング
レベル、というものがこの世界にはある。
レベルが上がると力が強くなる。
頭が良くなる。
技能が使いやすくなる。
レベルの数値で人間が判断される。
1レベルよりも10レベル、さらには50レベルと高ければ高いほど出来る奴、ということになり社会的な信用もつく。
レベルは経験値というものを消費することで上げることができる。
レベルが上がる時に取得したり、上がったりする技能は経験値を得る過程で使った技能、行動が関係することが多いが、我の暗黒魔法のように関係ないものが突然伸びたりすることもままある。
ふざけたことだ。
怪物を殺すことで得られる経験値、それを消費することで得られるレベル、それがどんな殺し方であっても上がり方は同じ。
まるで怪物に経験値なるものが貯められていて、それを殺すことで吸い上げることができるとでもいうようなこの仕組み。
貴族はこれを利用して金で雇った護衛に半殺しにさせた怪物に止めをさしてレベルを大量に上げるという。
事実、このエヴィアで最もレベルが高い戦士は王太子ヴィアンとされている。
王城の地下に作られた、というか王城がその上を覆って作られた巨大迷宮"ロイヤル・メイズ"で近衛騎士団の護衛の元、上げに上げたそのレベルは230。エヴィア最強の名をほしいままにしている。
もちろん、それをそのまま受け取る者はいない。きちんとした訓練を積んでからレベルを上げた方が強いのはみな知っている。
だが、それでも高レベルの王族がいるというのはそれだけで抑止力になる。おかげで近隣諸国は緊張しながらも一応の平和を享受しているのだ。
各国におそらく同じような境遇の王太子だの、王族だのがいて、果てしなく続くレベル上げに励んでいるのだろう。
翻って庶民はどうか。むろん高レベルの護衛などいない。死にかかったとしても神聖魔法で癒してもらうことなど思いもよらない。
弱い敵を必死になって狩り、うっかり傷を負えばそれが悪化して歩けなくなる。
誰かが連れてきた下層の怪物にひきつぶされ、迷宮の塵となる。
レベルが上がっても稼げる金などたかが知れている。剣を折り、鎧を傷めればそれだけでも致命的だ。買いなおせなければ武装の質が下がり、狩れる怪物も弱いものになって結局は引退に追い込まれる。
そうしたものが大部分だ。
アリスもそうした冒険者の一人だった。いずれ傷を負って働けなくなり、死ぬか、体を売るかという選択を迫られる。
ハルキスの娼婦には元冒険者も少なくないのだ。
だが。
我がいれば。
アリスのレベルを上げることができる。
サリシアはこの行為をあまり良いとは思っていないようだった。
無理にレベルを上げても軽んじられがちで尊敬は得られない。
それはそうかもしれない。
しかし軽蔑されてもレベル上げによる恩恵はある。
尊敬などいらぬ。ただ生き延びるために。
"パワーレベリング"開始だ。




