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プロローグ③

遥か、遥か高く。

おかしい。高すぎる。高すぎれば大気が薄くなり、一瞬で意識を失うかもしれなかったので、高度はほどほどに抑えていたはずだった。

白い、あくまで白く、そして広い。

こんな白一色の場所がこの世にあるものか。

もしやこれが北方の氷に閉ざされた極地なのか。

しかし、高度と風にもかかわらず、ここは暑い。いや!熱い!

我に眼球が残っていたとしても、ここでは即座に盲目になっていただろう。

吹き付ける熱風の向こうの白い原野。

ああこれは。


骨だ。

骨の砂漠だ。


では我はこの期に及んでだまされていたというわけだ。

あの魔方陣は、乗ったものを偽の主イアルダバオトの元に送るだけのものだったのだ。

我には不思議と怒りはなく、ただのっぺりとした無表情な絶望だけがあった。

当たり前だ。悪魔の王である偽の主イアルダバオトに善意などない。我の最終目的をはたさせてやったところで地獄にはなんの利益もなく、そんなことに手を貸すはずもない。

刈り取りの時なのだ。

一緒に落ちていた奴隷たちの体が、熱風に煽られ、吹き飛ばされ、ばらばらになっていく。

彼らの魂には罪がたりなかった。

地獄に落ちるにも資格が必要なのだ。

我ならば罪の重さも、愚かしさも十分であろう。

そのとき、我とは逆に、黒い弾丸のように地表から打ち出されたものがいくつか見えた。

そのうちのひとつが我の真下にあった。

よけようもない。我には空中で身をよじる暇すらなかった。

人間にどこか似た黒い顔と表情のない金色の目が最後に見えた。


砕けた。

我の体と魂が、しかし、砕けながらもなぜか意識はあった。

あの黒い影は我を砕いて飛び去ったのか。


「「下僕よ」」

偽の主イアルダバオトの声がする。何度も聞いた深みのある、低い声が。

「「其方の働きを賞する」」

偽の主イアルダバオトの声が近い。

「「其方が開きし扉は神の奴隷どもを踏みにじる役に立った」」

ああ、飛び去った黒い影は魔方陣を門として顕現するのか。

そこまでするのか。

もうよい。もう疲れた。

我は両手を広げた。もはやない両手を。

「「しかし其方を朕の領土には迎え入れぬ」」

なにゆえ。

「「其方は混ざってしまった」」

なんのことだ。

雲のように広がる砕けた我の体の中に、金色の目が光った。

「「よくよく運のない男だ。しかし朕が領土は其方如き不浄な混ざり物を許容せぬ」」

貴様のせいではないか!

「「不敬は許さぬ」」

嘲笑。

最初からそのつもりだったのではないか。

「「面白い世界がある。其方の如き道化にふさわしい世界だ。褒美として体を与え、その世界に送ってやろう。」」

ふざけるな。

「「馬鹿め。其方如き者を扱うにふざける以外のやり方などない。」」

声が小さくなっていく。

「「下僕よ。朕は汝の行いに飽みたり。疾く去れ。」」

我は巨大な掌にくしゃりとまとめられ、時空連続体の壁を越えて放り投げられた。

塵のごとく。


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