依頼②
ヴェンナが五ターラーで売ってくれた小迷宮ガイドと言う書物はなかなか役に立つ。
小迷宮の地図と全ての怪物の出現パターンを網羅しているそうだ。
「これがあれば何の問題もないですよ」
最初はうさんくさい売り込み文句だと思ったが、思ったよりいい娘なのかも知れないな。
もっともオークのように巣をもって繁殖する自然の生き物はこの出現パターンに合致しないが、"迷宮が生み出す"怪物に関しては非常に正確なようだった。
罠について詳細に記されているのもいい。
仕掛け弓などは押し通ってもいいが、落とし穴に水が張ってあるものなどは面倒極まりなく、泥水だらけになるのを避けられるだけでも五ターラーの価値はあるというものだ。
おかげで朝から小迷宮に入り、昼前には四階に到達することができた。
無論、大ねずみや大ナメクジ、三階のジャイアントアントや狂い狼も蹴りまくって通った。
この階は初めてゴーレムが出現する階ということで、九級の冒険者の試金石とも言えるそうだ。
ここを問題なく通過できれば八級が見えてくるという。
『ここより四階』
そう書かれた広場には簡易天幕がいくつか張られ、腰を据えて討伐している冒険者がいることをうかがわせた。
屋台のようなものさえ出ている。豪胆な行商人だな。
「こんにちは、ノール殺しさん!何か買っていかれませんか。携帯食料や砥石なんかも扱ってますよ」
「それがしを知っているのか」
「そりゃ、ギルドの有望株ですからね。お近づきになりたい商人は多うございますよ」
「さようか。しかし特に欲しいものはないな」
ここまで足技しか使っていないからな。
「ほう!ねずみとかはともかく、ジャイアントアントの酸は結構危険だったでしょうに」
軽い蹴り心地だったが、そんな技があったのか。
「ここまで来るのに大体二日かかる方が多いので、食料を切らすことも多いんですよ」
半日もかけずに降りて来たと聞くと驚くより呆れたような顔になった。
「いろいろ非常識な方とは聞いておりましたが、相当なもんですねえ」
失礼なことを言われているような気がするぞ。
この書物のおかげなのだがな。少しガイドブックを見せてやるか。
「へえ……失礼ながらこのガイドブック去年のですよね?」
去年?
「毎年の年明けに冒険者ギルドが発行しているんですよ。半ターラーで。売れ残りは在庫として初心者に無償で配布しているはず……何か怒ってますか!?」
怯えさせてしまったようだ。
我も修行が足りぬ。
今は怒りをおさめておこう。
しかし。
あのメイド、必ず泣かす。




