依頼①
フェリシアの行動はやはりというか問題になったようだ。
ゼノギアス教を国教とするゼノビア教国は大陸各地のめぼしい都市に色々な名目で外交官を派遣し、現地で働かせて地盤・人脈を作っているのだという。
その外交官でギルドの渉外担当を務めるイシドルスを文字通り蹴りだしたということなので問題にならないわけはないのだった。
しかし、最終的には改宗を含めた強引な勧誘をギルド加入者である我、ヨーハン・ハイデンベルクにかけていたのがイシドルス側の失点となり、ギルド長まで出てくる事になってうやむやになった。
宿に帰るとサリシアがそう教えてくれた。
「それはよかった」
それはそれとして、
「嘘を教えるのはよくないと思うぞ」
「やっぱり姉から聞きました?」
サリシアがいい顔で笑った。
やはりこの姉妹、似ている。
フェリシアは形だけ謹慎となったので、しばらく受付と案内ができない。
九級の依頼を受けるべく、我は掲示板の前でにらめっこをしていた。
掲示板は級によって受けられる依頼の箇所が決まっている。
オークリーダー討伐は階層に見合わない危険度の怪物ということで依頼は未分類だったが、実際には七級程度だという。
九級は危険度としてはまだまだ初心者の域を抜けない冒険者向けということで、低かった。
小迷宮三階や草原の怪物退治や採取、商店やキャラバンの護衛などで、単独でならともかく、数人で受ければ若い冒険者でも死ぬことはあまりない。
「これにするか」
『ギョルの討伐・肉の採取:報酬は一頭につき半ターラー』
串焼きの肉だ。
ギルドで買い取りしない分は宿に持ち込んでもいい。
なかなかよい選択、と自画自賛していると掲示板の前にいきなり頭が生えてきた。
「この依頼受けるですか?お勧めできないですけど」
見覚えがある頭。メイドのヴェンナだ。
「フェリシア姉さんからノール殺しさんの面倒を見るように言われているですよ」
まだ十三、四の小娘だが、言うことはかなり偉そうだ。
この間と口調が違う。
こちらが素なのか。
「ギョルというのは強いのか」
「強い弱いじゃなくて肉の血抜きができてないとおいしくないですよ。ギルドに持ち込まれたギョルで処理が失敗してるのはウチらの食事になっちゃうことがあるんで、やめてほしいです」
自分たちに迷惑だからやめろと堂々と言った。
なんというメイドだ。
しかし確かに血抜き処理などうまくできるとは思えぬし、一理はある。
「では何にするかな」
「ええー」
素直に従ったので意外だったようだ。
「あんまり自分ってものを出さないのも冒険者としてどうかと思うですよ」
どっちなのだ。
結局、茶々を入れてくるヴェンナの意見を全面的に容れて小迷宮の四階でボーンゴーレム討伐を受けることにした。
「骨でできているのか。アンデッドなのであろうか」
「なんです?アンデッドって?」
「スケルトンとかゾンビとか、亡霊とかだな」
「他はわかりませんけど、亡霊とかこの世にいませんですよ」
鼻で笑われてしまった。
この世界にアンデッドはいなさそうだ。




