密談
盗賊どもの始末をつけた次の日、冒険者ギルドから呼び出しが来ていた。
やはりあのやり方はあまりに無法だったか。
非難は甘んじて受けよう。
怒りのあまり過度に暴力的な手段に訴えた事は否めない。
まさか死刑などとは言い出すまいが……。
しかし拍子抜けすることに、冒険者ギルドで待っていた担当者というのはフェリシアだった。
こういう時は受付嬢などではなく、もっと強面の大男などが出てくるものではあるまいか。
フェリシアはぐいぐい顔を寄せてくる。
「おめでとうございます!」
何だと?
「青カード脱出です!」
罰は?
「報酬も出てますよ!」
やはりこの冒険者ギルドはいろいろとおかしい。
「盗賊の話は聞いてます。あの後小迷宮に潜った冒険者パーティーが報告してくれましたので」
やはりか。
「ちゃんと報告してくださいね」
それだけでいいのか?
「そうしないと評価できません。報酬に上乗せしたかったんですけど」
評価してしまうのか。そうなのか。
「あいつらほかの冒険者に嫌がらせしたり、報酬を横取りしたりする常習犯なんです。その報告してくれたパーティーも以前ひどい目にあわされてて、その復讐ができたのでとても感謝してました」
だから手柄を横取りせずに報告してくれたのだそうだ。
「ノール潰しさんに感謝を!って言ってました。でもね~~ 私の個人的にはちょっと思うところがあったりします」
やはり冒険者ギルドを離れたフェリシア個人としてはこうした暴力的な手段には賛成しかねるのだろうな。
よかろう。非難は覚悟している。
「ちゃんと両腕も全部折っておいてくださいね。這って逃げるかもしれないじゃないですか。あとちゃんと装備は剥ぎ取ってお金に換えないといけません。冒険者のたしなみですよ」
冒険者と盗賊の違いとは何か。
そしてフェリシアが冒険者ギルドの受付嬢にふさわしい女であることを我ははっきりと認識したのであった。
「はい、これ九級のギルドカードです。預金機能もついて更に便利になりました」
九級証も青かった。多少赤みを帯びた感じだろうか。上級に行くに従って赤みが増し、三級で完全に赤になるのだという。
二級は銀、一級は金、英雄はフェリシアも見たことがないが漆黒なのだそうだ。
材質も紙から金属に変わった。
十級で終わってしまう者が多く、田舎に帰る記念に、とか青春の思い出に、などという不心得者も多いのでいちいち本格的なカードを発行してはいられないということらしい。
「あの盗賊退治も含めると一気に八級に上がっちゃうんですけどね。まあ、規則ですから」
それと、とフェリシアは真面目な顔になった。
相変わらず顔は近いが。
「報酬の受け渡しも兼ねて奥で話せませんか」
応接室は受付のすぐ後ろにあった。
歴代のギルド長であろう、立派な顔をした肖像画が壁に掛けられている。
「どうぞ、お座りになって」
既に長椅子に座っていた年齢不詳の男が座るよう促してきた。
あまり強そうではない。間違いなく文官だろう。
「わたくし、このギルドの渉外担当をしております、イシドルスと申します」
フェリシアは我の隣に座って話を一緒に聴くようだ。
「フェリシアさん、とりあえず報酬のほうを」
「ハイハイ」
フェリシアは顔をこちらに向けたまま応じた。この男の事が嫌いなのか。
「銀で五十ターラー。お確かめください」
秤と一緒に袋を渡して来る。銀は磨り減りやすく、形や重さの違う貨幣を混ぜて使うことも多いので本来計量して使うものだ。ターラーとは銀を計るときに使う計量単位で、この大陸では正式な支払いには銀貨何枚ではなくこちらを使う。
「確認した。ありがたく頂戴する」
イシドルスは軽くうなずいてフェリシアに退室を促した。
フェリシアは無視した。
「フェリシアさん、報酬の支払いが済んだなら、わたくしたちはお話があるので……」
「私もお話に興味がありますわ」
「いや、あなた仕事があるでしょう」
「大丈夫です。今日はティミスもメイベルもいますし」
「そういう問題じゃないでしょう」
「お話を聴きたいんです」
フェリシアに退く気は全くなさそうだ。
「別に職員なのだし一緒に聴いてもよくはないか」
「ええ……」
イシドルスはため息をついた。
「ノール潰しさん」
「その呼び方はやめてほしい」
「ではハイデンベルクさん。貴方が神聖魔法の使い手であるという話があるのですが、真実ですか」
「やっぱりその話!冒険者の情報を個人的に流用するのはダメですって言いましたよね!」
フェリシアが強い口調でさえぎった。
「フェリシアさん。あなたが喋らなくたってビブラ司祭とか孤児院の子供とかから普通に情報が漏れてますからね。無駄なんですよ」
なんだこの男。どういう方向に話を持っていこうとしているのだ。




