真実の苦き味
「我を崇めよ。我が命に従う者に生命を与えん」
冷たい声が響く。
また暗黒魔法を使ってしまった。
また洗脳に手を染めてしまった。
ノールを蝕みで操った時も、フェイという少女に恥ずべき行いをさせてしまった時も言わば不可抗力であった。
しかし今回は何の理由もない。
オールドワールドで信徒や弟子に洗脳を施したときも、仕方がないのだと言いながら嬉々としてやってはいなかったか。
我は偽の主と世界を隔てても、結局は悪の手先に過ぎぬということか。
異世界に来たのを幸いと人間に紛れようとしても、我の中にある悪は烙印のように燃えて、結局現れてしまうのか。
治っていく傷に驚愕する盗賊どもを見ながら、我は暗澹たる思いをたゆたせていた。
「あんた、すげえ力を持ってるんだな」
リーダーの男が立ち上がりながら上目遣いにこちらを見てきた。
なぜだ。フェイの時と反応が違うな。
「おお、すげえ。こないだ初心者野郎にやられた傷まで治ってるぜ」
「お前それあの女だろ、ひでえ奴だ」
「ひひひ、調子がかえってよくなったぜ」
なにかおかしい。
「あんた、ほんとにすげえよ」
リーダーがもう一度いう。
「でも死んでくれや」
短剣をすばやく突き出してくる。腹の鱗は胸甲よりは薄いが、この程度の攻撃を通しはしない。
「ちっ!きかねえ!おいお前ら、聖者様はお優しいからよ。俺らを殺せねえ!怯まずにあててけ!」
「おう!」
「クロスボウを装填しなおせ!」
「あのオークはこっちのもんだ!黒い鎧もはぎとって売れば大した金になるぞ!」
「何が我をアガメヨだ!」
「ぶっ殺せ!」
洗脳が効いていない。
確かに必ず洗脳できるかは試していないが、傷は治っているのに、この程度の輩に全部抵抗されるなどと言うのはおかしくはないか。
「治した奴に裏切られたのが大分こたえたようだなあ!」
「甘いってんだよお!」
攻撃をしながら下品なあざけりを浴びせてくる。
ああ、うるさい。
考え事ができぬ。
影の刃を伸ばしたまま、全員のすねをなぎ払う。
「ぎゃあああああああああ」
二、三人の足がちぎれたようだがどうでもよい。
「実験を手伝ってもらうぞ。治療の報酬としてはなかなか妥当だろうが」
我はのたうち回る盗賊どもに"邪悪なる治癒"をかけてやりながら優しく言った。
"邪悪なる治癒"の使用MPは10。
レベルアップで上昇したとはいえMP上限は372しかなく、盗賊に洗脳がかからない考察をするための試行回数はそれほど多くはできなかった。
意志力の弱そうな者のほうが対象にふさわしいため、途中から最も弱そうな二人に絞り、他の盗賊は足を砕いたまた放置した。
50ほどMPを残した方が安全だと思えたので、実験は泣き叫ぶ下っ端盗賊を殴っては直しながら延べ三十回ほどに及んだ。
そのあと冒険者ギルドに戻ってフェリシアにオークリーダー討伐を報告しながら聞いた情報を総合して判断すると。
結論一:"邪悪なる治癒"に洗脳効果などない。
あのセリフは?
結論二:単なる宣言。術者とかけられた者に聞こえるが、それだけ。
フェイはなぜ洗脳されたのか?
結論三:あれは洗脳ではなくて感謝の表現。フェイはかなり特殊な人格と性癖で有名であり、フェリシアはそれを言おうとしていたのだが言葉を選んでいたので伝わらなかった。
なんなのだ。
我の絶望と暗澹たる思いを返せ。
我が怒りを知れ。
盗賊どもは足を折ったまま怪物の通り道に放置されるという報いを受けたのだった。
運がよければ生き残るであろう。




