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オークリーダー討伐、そして暗黒魔法再び

大ネズミは蹴り心地がいい。勝手にぶつかってきて勝手に飛んでいく。

巨大ナメクジはゼラチンの詰まった袋のようなものだ。

恐ろしくゆっくり動いているので道の中央にいるものをつぶさぬように蹴りよける。

二階のオークリーダーが巣食う地帯まで、使った武器は足技のみだった。

それにしても"小"と言いながらこの迷宮もかなり大きい。

階層ごとの広さはまちまちで、自然洞窟部分については明確な階ごとの区切りもないのだが、地図で2階とされている地点までおよそ徒歩で半刻、さらに目的地までがその倍かかった。

ゆっくりと迷宮というものを観察しながら来たつもりなのだが、追従する冒険者たちは徐々に減っていった。

我が蹴り転がした大ネズミなどを捕まえている者もいたようだ。案外美味で、迷宮外の露店でも焼いた肉を普通に売っているという。

そろそろか、と思っていると脇道の暗がりからぬっと槍の穂先が突き出された。剣の間合いではない。裏拳を真横に薙ぐと「プギ!」という声と共に骨が砕ける音がした。

これがオークか。

松明の明かりなので色はよくわからないが、だいぶ灰色がかったように見える皮膚を持った人間型の怪物だ。

背の高さはほぼ成人男性ほど。粗末な槍を持ち、防具らしきものはない。

豚に似ているとフェリシアは言っていたが、あまり豚らしくはない。鼻が大きいのでそういう印象なのかもしれないが、耳がとがって少々上についている以外は非常に醜い人間のようだ。

さすがに食肉にはならないが、革は防具の素材として人気があるという。

革の剥ぎ取り方などわからぬので、右耳だけを切り取り、鞄の中に入れた。

そのままにして歩き始めると後ろから押し殺した歓声があがった。冒険者たちが剥ぎ取りをはじめたらしい。

採取場はそれからさほど離れていない大きな空洞にあった。

二十匹ほどのオークが群れている。既に気づかれているようだ。

後方に二匹、他のオークとは違う姿をした個体がいた。

一匹はかなり大柄で他の者より頭一つ大きい。横も大きく、威圧感はノールを上回るだろう。もう一匹は背が低く、派手な髪飾りをつけている。呪術師といったところか。実際に魔法が使えるかはやってみないとわからぬ。

走り出す。剣は抜かない。出来合いの剣よりはるかに頑丈にできているとはいえ、この程度の敵に振るって傷をつけたくないのだ。

"肉体を武器に"のレベルが上がっているはずだが、どのように違ったものか。

暴力を体に染み渡らせていくと、拳と言わず、腕と言わず、影の色をした無数のねじれた刃が生えてきた。

腕を振ると短い刃がちぎれてオークの顔面に突き立つ。

脳に刺さったらしく、不気味に踊りながらそのオークは死んだ。

オークリーダーがなにやら叫び、オークどもが散開した。

呪術師が印を結び、白い光がその目の前に集まる。

高い熱量が感じられる。本当に魔術をつかえるようだが、しかし、あまりに遅い。

半身を捻りながら思い切り踏み込むと、先より多い影の刃が乱れ飛ぶ。そのうちの1本が呪術師の大きく開けた口に飛び込み、脊椎を砕きながら突き抜けた。

魔法の弾は制御を失い、オークの群れの真ん中で爆発した。

オークリーダーを含む数匹が吹き飛ばされて転がる。

我はそのまま歩いてオークリーダーの所に近づき、刃の生えた足裏でその首を踏み折った。

討伐完了。

その後残党は逃げず、殲滅にしばらく時間を要した。


耳を切り取り終わった頃、冒険者たちが追いついて来た。

皆殺しになったオークを見て採取を始めるのかと思ったが、なにやら相談をしていて近寄ってこない。

よく見ると駆け出し冒険者にしては年がいっており、装備もそれほど悪くない。

それなのに顔に荒みがある。

駆け出し冒険者を食い物にする輩かも知れぬ。受付の態度を見る限りこの迷宮内に法はない。

果たして、不意に矢が飛んできた。

迷宮内では使いにくいクロスボウをわざわざ隠し持っているとは、冒険者というよりは盗賊に近い者どもだったようだ。

胸甲で受けると金属的な音を立てて鏃が砕けた。

「やばい」

「なんだあの鎧」

盗賊どもがあわてふためく中、即座に逃げだした革鎧の男の膝裏に影の刃を投げて転ばせておく。

恐慌にかられて襲い掛かってくる者もいたが、影の刃で全員を無力化するのにかかった時間はオーク殲滅よりも短かった。

「何のつもりだ」

最初に転がした男は判断が早かった。リーダーなのだろう。うつぶせになって死んだふりをしていたのをひっくり返してやると観念したのか、答えた。

「すまねえ、間違えて撃っただけなんだ。許してくれよ」

転がっている男どもも口々に言う。

「間違っただけなのにひでえ」

「ギルドに訴えてやる!」

「強盗野郎め!」

なるほど、本当の事を言うつもりはなさそうだ。

暗い考えが頭に浮かんだ。

不満があるなら治してやろう。

この者どもなら何が起ころうが何の罪悪感も抱かなくてすみそうだ。

「わかった。不幸な行き違いがあったようだな。治してやろう」

意外そうな顔をしている盗賊どもに優しい声をかけてやる。

『邪悪なる治癒』

黒い光が傷を覆った。


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