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プロローグ②

我には手足もない。

奴隷に担がせた輿の上で、壊れた人形のような我の体がゆっくりとゆれる。

手足も、目も、弟子たちも、全て「偽の主イアルダバオト」、我が主に捧げてしまった。

その代わりに得た超常の力は、今も我とともにある。

伽藍の最下層にある空洞から、地獄の風が吹き出る音が我の知覚にとらえられる。

目的地への道は急な坂になっており、距離は長くない。

伽藍が焼け落ちれば、それほど間を置かずに炎が我を捕らえるだろう。


輿が止まった。

最下層には二つのものがある。

世間では我が毎夜美女や美童をはべらせた大乱行を地下の豪華な部屋で繰り広げていると噂されているが、実際にはこの部屋には何の装飾もなく、奴隷と我以外に立ち入らせたこともない。

井戸と、魔方陣。

井戸は我が最初に作らせた施設であり、地獄に繋がっている。

全ての犠牲はこの井戸を通じて偽の主イアルダバオトに捧げられる。

魔方陣は最後に作らせた施設であり、我がここに降りた理由でもある。

「転移魔方陣……」

十三の魔法円、十三の呪物。

成功すれば、一定時間数人の人間を遥か彼方に転移させ、また引き戻すことができる。

これを使うことにより、我はこの都市を、この国を救うつもりでいた。

どうしようもなく腐敗し、蛮族の侵入により荒廃した我が故郷を、ハイボレアの金や、南方諸都市の香辛料、カラ・キタイの技術によって変革しようと考えたのだ。

しかし、魔方陣はまだ完成していない。

送られるべき場所の地形、高度、空気の質など考慮すべき事柄はあまりに多く、このまま使用してもただ単に送られるものの命を使いつぶすことにしかならぬであろう。

我は輿を降りた。

激痛がないはずの手足に走る。

金属と得体のしれぬ生き物の肉で作られた魔法の四肢が一瞬で構成され、我の苦痛を糧に一時的な行動の自由を与えてくれる。

六本指のかぎ爪で、魔方陣の方位と高度を書き換える。

最初で最後の実験であれば、その時に使われるのは我の命がふさわしい。

山脈に押しつぶされるか、海の底で鮫に貪られるか。


願わくは、しばらくは生きて他の世界を見られるところが良い。

背後で伽藍が焼け落ちた。熱風が吹きつけてくる。

今しばらく。

最後に距離を書き換えねば。

この世界の真の広さを我は知らぬが、希望的観測により数値は大きなものとなった。

「一桁多かったかもしれぬな」

起動。


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