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宿屋に篭る日々①

ゴランの店から宿に戻ると昨晩対応してくれた女中がいた。

「スマヌガ、頼ミタイコトガアル」

「なんなりとお申し付けくださいな」

まず、この世界の言葉を覚える必要がある。そして常識を。

今のままでは水一杯買うのにいくらかかるのかといったことさえわからぬのだ。

いちいち集中して言葉を聞き取るのは非常に面倒だし、ステータスの読み取りを進めるために文字も覚えたい。

ゴランの店でかなりの文字数を読み取ったためか、その後何度試しても一文字も解読できなくなっていたのだ。なんらかの制限がかかっているらしい。

「家庭教師ということでしょうか」

「ソレホド大ゲサナモノデナクテヨイ」

「それでは私がおつとめしましょうか。主人からも私はお客様専従でよいといわれておりますし」

それはありがたい。それにしてもアリアスはたいした権力をもっているようだ。

「タノム」

その日の午後から、この世界の言語の習得を始めることとなった。


驚いたのはこの女中がなかなか教え上手であったことだ。

以前は子供相手の家庭教師をやっていたこともあるという。

それがなぜ宿屋で女中など……いや、どうでもよいことだ。

この世界の識字率はオールドワールドと比べても低くないが、自由に読みこなす者はやはりそれほど多くなく、代書屋は重要な職業であるらしい。

言葉と同時に文字を覚えられるのは助かる。

集中翻訳を同時にかけながら練習するので、授業はかなり奇妙なものであった。

「ハイデンベルク様はなにか魔法を使っていらっしゃるのでしょうか」

女中……サリシアがなんとも言えない顔をして聞いてきた。

たとえば、"机"という言葉を習っている段階なのに、その習得中の言語を使って社会情勢についてかなり複雑なことを聞いてきたりする生徒はなかなかいないだろう。

仕方がないので、集中翻訳のあらましについて教えておく。

「なるほど、話し言葉の方はMPをつかわないということでしたら、魔法ではなくて加護なのでしょうね。読む方はMPをつかう魔法……珍しいですね。しかも勝手に発動するとか、聞いたこともありません」

勝手に納得するサリシア。MPとはなんだろうか。

いろいろな新たな疑問がわきつつも、集中翻訳を前提にした授業は極めて順調に進めることができた。

ゴランの店に剣をとりに行くまでにある程度話せるようになっておくのが目標である。


サリシアはなるべく時間を取ってくれていたが、女中頭のような立場らしく、どうしても手が離せないことはあった。

ただ待っているのも芸がない。

裏庭に回って剣の稽古をすることにした。

数打ちの平凡な剣でも「振っておくことが大事」、と昔の剣の師も言っていた。

剣に体を慣らすのだ。

鞘から抜き放ち、握り締める。

いやな手ごたえがあった。

これはまずい。柄が割れかかっている。

ゴランがおかしな剣を渡してきたというわけではなく、我の握力が強すぎるのだ。

剣の柄というのは大体木製で、それを革や糸で巻き締めて強化してある。なかごと呼ばれる剣の根元の部分を柄に差し込んで固定するのだ。そうしないと硬いものに刃が当たったときに傷みやすいし、手首に直接衝撃が伝わってしまう。最悪骨折することもあろう。

しかしこれではゴランの剣が出来上がってきても実戦には使えぬ。

ノールの大剣は剣とはいうものの、実際にはただの青銅の延べ板で、木製の柄などという高級なものはつけられていなかった。我の佩剣はあのようなものでなくてはなるまい。

少々思案が必要であった。


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