入城
ハルキスは石造りの城壁を備えたなかなか大きな都市であるようだった。
アリアスが都市の衛兵になにやら命令しているのを見ると、そのアリアスを従える姫様はやはり相当の身分なのだろう。
だが今は少々の無礼など気にしておれぬ。このまま姫様の相手をしていては早々にボロが出よう。
「感謝イタス。デハソレガシハコレニテ失礼」
姫様はなにやら言っているが侍女は止めてこない。
「アリアス殿」
「おお、ハイデンベルク殿。申し訳ござらぬ。死者の回収と報告を行わねばならぬため、お構いもできず」
「気ニナサルナ。ソレガシガコノ町ニシバラク逗留スルコトハ可能デアロウカ」
「それはこちらからお願いしたきことであった。館にお泊りいただいて・・・」
「ソコマデシテイタダクコトハナイ」
我はあわててさえぎった。できればこれ以上姫様と関わらない形をとりたい。
「そうか、しかし……いや、わかった。実はハイデンベルク殿のことを館にどう説明したものかと悩んでおってな。宿は紹介する故、そちらにご逗留いただけるか」
居場所を知らせておけということだな。
「それと、路銀の足しにしてくだされ」
重い袋を渡された。
「アリガタイ。コノ国デハ宿代ハイカホドデアロウカ」
「今から言う宿には使いのものをやるゆえ、しばらく宿代の心配はいらぬ」
我はアリアスに感謝を述べ、言われた宿に向かった。
周りの者たちが妙にじろじろと見てくるのは気になるが、今は仕方がない。
宿はオールドワールドでいうところの旅籠よりは少々立派な建物で、一階は酒場、二、三階が宿になっているようだった。
連絡がすでについているのであろう。女中がすぐに寄ってきた。
「アリアス様から伺っております」
すでに夕刻になっていることもあり、酒場はかなりの盛況であった。
「……でけえな」
「ノール百匹を素手でぶち殺したってよ」
「化け物じゃねえか」
「怖っ!」
ざわざわとする声にところどころ集中してみるが、どうも我はかなり注目されているようだった。
あまり好ましい徴候ではないが、今更どうにもならぬ。
「食事をされますか」
「今ハ不要。ソレヨリ今カラ言ウモノヲソロエテホシイ」
我は大きめのマントと頭巾、鞄を取り揃えてもらうこととした。
便宜をはかるよう言われているらしく、金もアリアスからもらうからいらぬという。
「サヨウカ。デハコノアタリニ武器ヲ商ウ者カ、鍛冶屋ハオラヌカ」
「ゴランじいさんのとこなら出来合いの剣もありますし、打ってもらうこともできるかな」
素手で戦うといつ"蝕み"が発動してしまうかわからぬし、戦士に佩刀がないのもいかにもまずい。
今日はもう終わってしまっただろうというので、明日ゴランなる鍛冶屋を訪ねることにした。
部屋は清潔で、身の回りのものも一通り揃っていた。
マントなどを女中が届けにきて、羽織ってみたあとはやることもないので寝ようとしたが、寝られぬ。
疲労を感じていないのもあるが、ハーフデーモンに睡眠は不要なのかも知れなかった。
我はベッドに座り、祈った。
聞き届ける者はなく、静かに夜は過ぎていった。




