表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔の尖兵がテンプレ異世界で茫然とする  作者: papaking
スリー・サイデッド・ストラグル
127/130

死に続ける人々

"深淵の人々"の中で最初に衝突に気づいたのは誰だったか。

彼らが無論鈍いはずもなく、だが軍勢への浸食は思惑を遙かに超えて速かった。

「犬どもがかなり食い荒らされておるぞ。助けるか?」

集中して思念を読み取っていた者が年長者に尋ねた。

「無用」

答えは端的だった。

「しかしあまり無策なのも面白くなかろ」

別の者が蒼古たる自らの兜のひさしを軽く持ち上げた。

この兜は彼らの祖先から伝わる防具の一つで、強い支配の呪力を持っている。

こめかみの上当たりに突き出した巨大な鼓を打ち鳴らすと、配下の人間族に対する精神汚染を忠誠で上書きするのだ。

彼の手が音もなく鼓を叩くと、目に見えて軍勢の動揺が静まった。

弱小な悪魔デヴィルや、幾らかの天人アルコンすら反撃を受けて手傷を負う。

だが。

「今のでこちらを見つけたな」

年長者が面白くもなさそうに言った。

「今さらじゃろうが。まだこちらに来ぬのは、もったいをつけておるだけじゃ」

兜を鳴らした者は巨大の戦槌を持ち上げて獰猛な笑みを見せた。

六本の腕と昆虫のような頭を持った大型の悪魔デヴィルがバッタのように跳ねながら"深淵の人々"に近づいていた。


「すぐ総攻撃できます」

「すぐ殺せます」

「待て」

「はい。ハイデンベルク様」

「はい。ヨーハン様」

南部連合軍……この戦争の見届け人たちはまだ一部すら到着せず。


「これは本隊じゃあないぞ」

嫌になるほど多種多様な悪魔デヴィル、一見して個々の見分けすらつかぬ天人アルコン、生き物かどうかすら定かでない混沌の野獣からなる攻撃を二度押し戻した後、"深淵の人々"の誰かが忌々しげに吐き捨てた。

「わかっとる!本隊はあそこだ」

山脈の陰に巨大な気配がある。それも三つ。隠してすらいない。

なんという自信。

なんという倨傲。

「遊んでいるのか」

「いっそこっちから何人か行くか?」

「やめておけ。底が見えぬ」

「誰……いや何なんじゃ……」

見えている敵も既存の知識にない者ばかりだった。

大陸北部を鉄の手で支配する"深淵の人々"の心に今ようやく寒々しい思いが吹き込んで来ていた。


「あ」

ヴァンダリは戦場をふらふらと歩いている自分を見いだした。

自慢の大剣は手から離れ、具足すらなく、地面に広がる得体の知れない粘液を素足で踏んでいる。

ぼんやりと見回すが、あたりには生きている者の姿も、敵すらもいなかった。

俺は、逃げたのか。

実は精神支配に無意識に抵抗した挙げ句むやみに走り出しただけなのだが、グラーク族の勇者としてのヴァンダリの矜持はひどく傷つけられていた。

どこかから非人間的な怒号が遠く聞こえる。

"深淵の人々"だ。

武器をどこかで調達して、再び戦って見せなければ。

ヴァンダリは重い体を引きずって戦場に向かおうと考えた。

「「やめておけ」」

誰だ。

声がする。

"深淵の人々"によく似て、もっと古い声だ。

ヴァンダリは突然理解する。

"最初の母"が語りかけているのだと。

彼はひざまづこうとするが、バランスを崩し、泥濘の中に倒れてしまう。

「「眠れ。我らは負けるが、汝にはやってもらうことが残っておる」」

抵抗は無益。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ