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地方都市ハルキス

しばらく歩きながらアリアスと話した。

あの大男……ノールというらしいが、その襲撃で馬が大半斃されていたので目的地への歩みは遅く、情報を色々聞き出すことができた。

ここがエヴィアという国であること。

王政であり、老境にある王のもと、よく治められているということ(アリアスは王に仕えているらしいのでそう言わざるを得まいが)。

西には貿易港を持つパサスという国があり、エヴィアとは友好的であること。

逆に他の近隣諸国は最近圧力を強めており、パサスに近いこの地方から兵力を引き抜いているので街道筋の治安が悪化して困ったものであるということ。

肝心の護衛対象に関してはアリアスは言葉を濁していたが、馬車の窓からちらちらとこちらを伺ってくる小さな金色の頭が見えた。

護衛が王族にしては少ないので、王の縁につながる貴族の姫君でもあろうか。

我の来歴については言葉が聞き取れない振りをしてかなりの部分ごまかした。船で外国から着き、パサスを発ってあてもなくエヴィアに流れてきたと思ってもらえればありがたいが、国境の関所に問い合わせれば我のような者が通った記録などあるはずがなく、極めて怪しげな筋書きではある。

うまい言い繕いなど出来ようはずもないのだから、あまり細かい作り事を述べてしまうのはかえって好ましくない。胡乱な男だが、役に立つと思わせておけばよい。

この世界の魔法についても尋ねたのだが、アリアスとその部下にはあまり魔法に詳しいものがおらず、要領を得ないでいるうちに、残った騎馬を飛ばして呼んできた増援が着いた。

アリアスはその差配に追われ、話はそこで終わってしまった。

全員増援が連れてきた予備の馬に乗り、我にも馬が勧められたが、その馬は泡を吹いて怯えてしまい、ひどく気まずいこととなった。

「徒歩ニテ参ル。気ニメサルナ」

そういったものの、我のみ徒歩ではまるで罪人か従者の扱いにも見えよう。

アリアスらは困惑していたが、そこで馬車の扉が開いて、侍女らしい女が降りてきた。

「姫様がその方に特に同乗を許すと仰っておられます。」

女自身はあまり歓迎しているふうではなく、アリアスの困惑はさらに深まったが、再度促されると他に手立てがないこともあって、我は馬車に同乗することとなった。

こうした場合、貴族からの誘いは断ってはならない。オールドワールドのそうした作法がこの世界でも通じるものかはわからぬが……。

頑丈な馬車は我の重量にきしみながらなんとか耐えた。

"姫様”は年のころ十ほどの少女であった。我は不躾にならぬようなるべく面をふせていたが、すさまじい勢いでなにやら話しかけてくる少女に辟易し、侍女に助けを求めてちらりと視線を送った。

「姫様はその黒い面をはずして顔を見せるように仰せです」

何をいう。

「……イタシカネル」

また何か言っている。早口すぎるためか、集中してもうまく聞き取れない。

「姫様はぜひともと仰せです……言い出すと聞かれませんので、早めにお願いしたいのです」

侍女は明らかにうんざりしている様子だった。当然だろう。護衛の騎士が自分を守って何人も死んだというのにいくら子供とは言え、何も気にしているように見えぬ。

貴族の子弟にありがちな"壊れた"性格なのか。そばかすの多い、いかにも子供っぽい顔の青い目には好奇心しかない。

「傷アリシユエ、ゴ容赦ネガイタク」

「そこをなんとか、と仰せです」


このようないかにも馬鹿げたやり取りをしばらく繰り返したが、結果として面頬を取るはめにはならなかった。取れもしないわけではあるが。

全員が騎乗したことで移動速度が上がり、明るいうちに我らは城塞都市に入ることができた。

「ハルキスについたわ!」

ぴょんと跳ねて姫が窓から外をのぞいた。

我はなんとかこの姫から縁を切らねばと考えていた。


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