護衛隊長アリアス
ドン!という大きな音が響いた。
謎の巨人がノールの裏切り者の脳天ををまるで木の杭を打ち込むように叩いたのだ。
体中の穴という穴から血を噴出してノールは死んだ。
ノールは古の巨人の血をわずかながらも引く種族で、極めて愚かではあるが頑強さでは訓練された戦士をもしのぐ。
それをこの謎の巨人は兎かなにかのように殺した。
それだけではなく、この旧街道沿いの宿場町あとはノールの死体だらけになっていた。
ほぼこの男が倒したものだ。
五十を超えるノールの集団に襲われ、なんとか姫だけでもお逃がしせねばと思っていたが、ほんの半刻足らずでノールを殺戮しつくしたこの男も謎だらけでまったく安心はできない。
「剣をおさめよ」
「大丈夫でしょうか」
「刺激してはいかぬ。今のところ手出しをしてくる様子はない。」
「安心サレヨ」
突然、巨人が言葉を発した。
「しゃべれるのか?」
「外国人ニテ コノクニノ言葉ニハイササカ難渋イタシテオル」
おそろしく聞き取りにくい話し方ではあるが、なんとか意思疎通ができるのであれば一安心だ。
「戦士どの・・・あ、いや騎士、であろうかな?」
まるで光を吸い込むような漆黒の鎧、見たこともない意匠の兜、面頬には龍とも悪魔ともつかない精緻な浮き彫りが施され、まったく肌の露出はない。
このような見事な全身鎧を買えるのは上級騎士とも思えるが、馬には乗っておらず、武器もないのでなんとも身分がわかりかねた。
「……流浪ノ身ニテ」
「さようか。これなる馬車にはさるやんごとなき身分のお方が乗っておられる。安全な場所までお連れするのを手伝っていだだけるなら、私が誓って仕官の口添えをいたそうが」
巨人は声を発せず、かすかにうなずいた。
「よし、馬車の修理が済んだら出発する!死体はおいてゆけ!敵の増援を警戒せねばならぬ」
「よろしいのですか」
副官のリガが追いついてきながら小声で言った。
「あの化け物をつれていって」
「失礼なことを申すな」
さらに小声で付け加える。
「聞こえるぞ。あれが何者かわからぬ以上、近くにおいて動きを監視したほうがよい。なるべく馬車に近づけないように警戒しておけ」
あとは姫様がおかしなことをお考えにならないことを祈るばかりだが・・・・・。
「あの人だれ?お話ししたい!」
馬車の中から不穏な会話が漏れ聞こえてきた。
侍女どの、なんとかもたせてくれ。




