プロローグ①
燃えている。
我の夢が。
我、ヨハンネス・トリミテウス、修道院長でありながら魔術を能くする者であり、その双方によってこの世界を変革せんと欲したが全て虚しく終わった。
我が行いの全ては悪に染まり、もはや抗弁もできない。
いや、抗弁など無意味だ。我自身が為した悪については、忘れもせぬ。
悪魔の力を用いてこの世界を変革しようなど、どうしようもなく絶望的で、傲慢であった。
その報いが我の夢、我の大伽藍を焼いている。
神の御名を唱えつつ、修道士達が放った火は我の防護をじりじりと焼き落としてゆく。
無言のまま、奴隷がまた一人倒れる。
奴隷の命を代償に我の力は炎を防ぐことを得るが、それもまた虚しい。
我が居室に祈りの姿勢のまま苦悶する奴隷があと五人。
全て我が弟子であり、我が地獄の力によって伽藍の防護に彼らの生命力を注ぎ込んでいる。
我は頭上を振り仰いだ。我の眼窩には眼球がない。目で見ているわけではないのに習慣として頭を動かしている。
我の超自然の視界が頭上に向けられる。
火勢はますます強い。それほど時間は残っていない。
「進め」
我は輿を担ぐ四人の奴隷を促す。
彼らには最後までついてきてもらう。