追憶
梅雨が終わりじめじめした空気がただよう。校内には4限目の始まりを告げるチャイムが鳴る。
「早く行くぞ」
体育の授業を欠席し3.5階と呼ばれる溜まり場に集まった。
「ジュン、トランプは?」
「持ってきたよ。なにする?」
「大富豪やるか」
純吉はトランプをシャッフルし、それぞれに配った。
3.5階とは、3階から屋上の間の階段のことで、屋上は基本的には侵入禁止であるためここには人が来ない。
先生もこの空間の存在を認知しているもののここまで上がってくることはまず無い。
大富豪は、手札にジョーカーが来た段階でぐんと勝率があがる。配られたカードを各々が確認しゲームが始まる。
「ジュン仕組んだだろ、俺の手悪すぎる」
「んなわけねーよ、将太の運だろ。早くカードだせよ」
「雄大、お前ジョーカー持ってるべ」
「さあな」
4人で大富豪をやれば一番収まりがよくゲームが進む。
時間が経ち、20回戦ほどでチャイムが鳴った。昼休みが始まる。純吉を先頭に購買へ走り、みんなはいつも通りにからあげパンとフレンチトーストを買った。
今日は水曜日。水曜日は4限で授業は終わり。5限目は奉仕の授業だが、これはほとんど自由行動なので普段のグループで集まっておしゃべりができる。
3.5階に戻り、先ほどと同じ座り位置で昼食。純吉は購買で買ったパンをかじりながら携帯をいじっている。いじりながら将太らに放課後どこで遊ぶかを聞いている。
カラオケ、ダーツ、ゲーセン…
「今日はボーリングだな」
純吉は将太にパンを包んでいた袋を投げる。
「きったねーな。また賭けるか?」
「ピン100でどーよ」
「おっけ」
ボールを投げて、残ったピンの本数分100円を出す。勝者が全額を総取りする。ただしガーターの場合は2倍出さなくてはならない。
「ジュンは賭けるとつえーからなあ。あんましやりたくないけど」
「お、ビビってんですか?」
「雄大はちんこついてねーもんな」
「なめんな、やってやんよ」
「さっすが雄ちんちん。お前も行くよな?」
純吉は振り返って、問いかける。
「俺は…いいや」
「なんだよノリ悪いな~。せっかくだから行こうぜ」
「俺このあとバイトだからさ」
「あれ、いつの間にバイト始めたの?」
「昨日面接受かったからね。夏休み始まるし稼ぎどきじゃん?」
「あっそ、まあいいや。今日は3人でボーリング行くか」
純吉はふてくされながら携帯をいじり始めた。
「悪いな、また今度行こうな」
そういって立ち上がり階段を降りていった。同時に5限目が始まるチャイムが鳴り響く。
「アイツ、ノリ悪いな」
「怒んなよ、ジュン」
「だっていつの間にバイト始めやがってさ。普通言ってくれるもんだろ」
「オメーはアイツの彼氏か」
「そうじゃねえよ。友達なら教えてくれたっていいだろってこと」
「はいはいわかりましたよ。今度アイツのバイト先行ってみようぜ」
「おっ!それいいな。今日ボーリングやめて行くか」
「なんでそうなる」
純吉が吐き捨てるように言うと将太と雄大はハハハと無駄に大きく笑った。
教室についた頃にはすでに担任が出席を取っていた。
「大島純吉、山口将太、藍本雄大、欠席でいいかな?」
「いえ、出席でお願い申し上げます」
純吉はかしこまりながら答えた。クラスからはクスクスと笑い声が漏れる。
「あれ、川田はいないのか?」
担任が呼び掛けるが席にはいない。
「いや、さっきまで一緒に居たんですが」
純吉が答える。
「トイレかな?とりあえずさっきまでは一緒にいました」
純吉が続けた。恐らくバイトに行ったんだと思ったが口には出せなかった。
「まあいい。川田は欠席扱いだな」
なにやってんだよアイツ。水曜は授業も早く終わんのになんで今日サボるんだよ、と言わんばかりの顔をしている純吉は、先ほど自分たちが4限目をサボったことを忘れているに違いない。
おもむろに携帯を取りだし、素早くメールを打った。
『慶太、もうバイトに行ったのかよ』