傑作
私って、ドジなんだよねー、またやっちゃった
自嘲とも、冗談ともつかない口調で彼女がそういうのを僕は聞いた。
なんとなく、クラスのみんなも聞き慣れてしまったセリフである。
事の発端は、秋に遡る。最初は、文化祭の時彼女の筆記用具が一つなくなっていたことだ。最初は、誰もがただの紛失だろうと思っていた。一部を除いては。
僕はそういうのに興味がなかったし、クラスの連中をみんなただの低脳だと思っていた。
少なくとも、あの事件があるまでは。
事件というのは、文化祭の筆記用具紛失に引き続き、彼女のノートが紛失したことだ。僕は偶然その日、席が隣であった彼女のノートを借りていた。前回の授業を諸事情で欠席していたためだ。僕はその時、彼女がノートをしっかりと机の中にしまったのを目撃している。次の授業は移動授業だった。体育のため、日直がカギをかけることになっている。その日の日直はクラスの人気者のRであった。
彼女が異変に気がついたのは放課後であった。僕に確認を取りに来たのを覚えている。僕は、彼女自身がしっかりと机の中にしまったのを見た、という旨を伝えた。彼女は一瞬、顔に陰りを作らせてから、またいつもの表情に戻り礼を述べた。
そしてまた数日後。なんというわけもなく、ただ席が隣であるというだけの理由だった。授業中のペアワークで彼女が使っていた定規かなにかが、紛失していたそうだ。前回と同じように僕に確認を取ってきた。僕は前回と似たり寄ったりの受け答えをした。そういえば、その日も移動教室があり、日直はTだった。TはよくRとつるんでいた。
その後、かなりの頻度で彼女の所有物がなくなることが増えた。時には、戻ってくるが、大抵は消失直前の状態とは大幅に異なっていた。詳細は、述べない。
度重なる、紛失事件で僕はなんとなく察した。日に日に憔悴してゆく彼女を見て。
ああ、なるほどーーー
そういうことか
そういえばRは金持ちの子供だったな。Tの父親は確か、学校に出資をしてるんだっけ?
詮索は好まないが、興味本位で調べてみた。
やっぱり、クソだな。教師も。
低脳のクズばっかりだ、どこもかしこも。へつらってちゃ生きていけないのはわかるけどな。
家に帰るのを好まない。だから、よく放課後の遅くまで残っている。その時に、何度も彼女を見かけた。教師と話していた。切羽詰まった彼女の言葉に、教師は適当そうに頷いていた。
クソッタレが。
その日、思い至ることがあり待つことにする。
あえて、校門で待ち伏せてみた。
落胆した顔で、廊下の方から歩いてくる彼女に僕は軽く会釈をして、駅まで一緒に歩いた。
おもむろに話しだした内容に、彼女が驚いているのがわかった。驚愕の表情が時折来る車に照らされる。
そして、彼女とは無言のままその日は別れを告げた。
帰宅し、安いコンビニ弁当を貪った。
ふと、僕に唐突なる破壊感情が沸き起こった。
どうせ、親なんて帰ってこない。僕は、家にある使えそうなものを漁った。
東の空が明るくなった頃、僕は自分の作品に満足した。
そして、最後に仕上げる。
「僕がやったという証拠を残す」これが一番大切だ。
作品をかばんに詰め込み、いつもより早く登校した。
もちろん教室には誰もいない。
僕はそっと自分の作品をRとTの机に仕込んだ。仕掛けの内容は述べない。あれは、僕の作品だから。
RとTが登校する。遅れて、彼女も憔悴しきった顔で学校へ来た。
朝礼の時、僕は得も知れぬ高揚感に包まれていた。絶対的優位性だ。
視界の端でRとTが机の中に手を伸ばすのが見えた。
笑えをこらえきれなく。本に集中しているふりをする。
もうすぐだ、もうすぐだ…
約二名の悲鳴が聞こえた。全員の視線がそちらに集中する。僕はあえて振り向かない。
RとTの顔にへばりついているのは、自作の血糊だ。そして、死骸のように見せかけたおもちゃ。
二人は、瞬時に僕の席の隣の彼女を睨みつけた。
そのタイミングを見計らい、ぼくはゆっくりと振り向いてRとTに微笑みかけた。
その時の、二人の雷に打たれたような表情はとても見ものであった。傑作だ。
微笑みが思わず、ニンマリしてしまう。
二人は黙って教室を出て行った。ご丁寧に、手紙まで添えてやった。
傑作だ、実に傑作だ。
その数日後、二人の親が学校にクレームに来たのを見かけた。無能な教師たちは、ただただ平身低頭するだけであった。教師たちは、僕の仕業と気づいていても、僕の名前を口にだすことはできないし、僕に処分を下すこともできない。
その後、彼女の周りの紛失事件はピタリと止まった。
残雪が残る季節になった。僕は、彼女から一通の手紙を手渡された。
そこに書いてある内容もおおかた、予想通りだった。
だから、適当に読んで処分した。
どうせ、僕には関係のないことだ。
まぁ、ノリで書いてしまったので誤字脱字はご勘弁ください。