#1 - 6
突然周りがざわつき始める。
それもその筈。
学園のマドンナである神楽坂纏が一般生徒に話しかけているのだ。
ましてや人気者でもなくむしろ全く目立っていない俺に話しかけてきたのだ。
「あ……はい。おはようございます」
一応ここは挨拶をしっかり返すべきだと判断した俺は取り敢えず挨拶しておいた。
神楽坂纏はそのまま軽く会釈をして校舎に歩いていった。
俺はしばらくボーっとしていたがすぐに遠坂のハンカチの思い出した。
神楽坂纏が遠坂の親友ならば遠坂のクラスぐらいは知っているだろう。
「あ、あの!」
俺は校舎に入る直前に神楽坂纏に追いついて呼び止めた。
「はい、何でしょうか?」
「あの……遠坂苺さんって何組か知っていませんか?」
俺の質問にちょっと驚いたようだ。
「あら……苺ちゃんに何かご用でも?」
「え? あぁ、偶然ハンカチを拾いまして……」
そういうと俺は鞄の中から遠坂のハンカチを取り出す。
神楽坂は遠坂のハンカチを受け取って俺に言った。
「苺ちゃんは同じクラスなので私が渡しておきますね。拾ってくれてありがとう」
そしてそのまま靴箱で靴を履きかえていった。
あの呼び方からして遠坂の親友だというのもあながち嘘でもないようだ。
俺は初めて自分のクラスに居心地の悪さを感じた。
男子からは憎悪、女子からは奇異の目を向けられている。
学園のマドンナである神楽坂纏としゃべるだけでこんな目に合うのか。
神楽坂纏……恐るべし……。
そう思いながら窓の外を見て気を紛らわせていると良太が話しかけてきた。
「おい天利お前今この学園でものすごい話題になってるぞ」
「……因みにどんな話か教えてくれるか?」
俺が窓の外を見たままそう聞くと良太は苦笑しながら教えてくれた。
「悲壮感を漂わせて纏さんの同情を買ってる男がいるって」
確かに俺は地味で目立たないがひどい言われようだ。
悲壮感など漂わせているつもりなど微塵もない。失礼にも程がある。
しかしこれはどちらにせよ神楽坂に悪い印象を与えるような話だ。
俺だけなら問題はないが神楽坂にまで迷惑をかけるのはよくない。
「はぁ……。なんでこんなことに……」
俺がため息をつくと良太は気楽そうに言った。
「どうせそんな話一時的な噂話だろ。そのうちなくなるよ」
「そう願いたいね」
良太の言ったことが正しいのかもう今日の下校時にはその話はすっかり消えていた。
いや、もしかすると良太がもみ消してくれたのかもしれない。
友人の多い良太はそう言った話を操るのが得意なのだ。