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藪から出てきた女の子が出てきてどれくらい時間がたっただろう。
もともとコミュ障気味な俺は自分から話しかけることがあまり得意ではない。
俺の予想としては藪からこちらを見ていた向こうが言い訳をし始めるだろうというものだ。
だがしかし、一向に言い訳もしなければ声をかける素振りも見せない。
ただ一心にきれいな緑色の目で俺の顔を見つめている。
その状態で恐らく体感的に考えると5分くらいだろう。
夕日はもう海に沈んでしまってあたりはもう外套の光と月の光だけだった。
このままでは埒が明かないと思った俺はひとまず声をかけてみることにした。
「あの、さ。どうして君は藪から俺の事を見てたの?」
「……」
少女はその俺の問いに答えない。
ただひたすらこっちを見つめ続けている。
ここは問いかけるより先に謝るべきか……いや、むしろ向こうが謝るべきだ。
後ろの藪からじーっとのぞかれて喜ぶのは一部の変態さんだけだ。
サァァァァ…………
風が吹いて近くの木の葉と藪を揺らす。
それと同時に少女の茶色く長い髪も後ろになびかせる。
「…………から」
少女がポツリとつぶやいた。
急につぶやいたので殆ど聞き取れなかった。
「……ごめん。もう一回言ってくれる?」
「珍しかったから」
今度ははっきりと聞き取れた。
綺麗な川のせせらぎのような澄んだ声だった。
しかし珍しい?この子も昔からここをお気に入りにしていたのか?
だとしたら一度もあったことがないなんてありえないだろう。
「君もよくここに来るのかい?」
少女は首を横に振る。
ようやく話が進められそうだ。
「前にもここに来たこととかもあるの?」
「……今日が初めて。でも人はあまり来ないって言ってた」
「言ってたってことは誰かから聞いたの?」
その質問に対して彼女は頷く。
「前々からここからの景色は綺麗だって纏から聞いてた」
「……え? 纏?」
少女は思わぬ人の名前を口に出す。
纏ってまさかあの神楽坂纏のことか?
少女は言葉をつづける。
「纏は小学校からずっと一緒の私の親友……」
「その纏さんってまさか……」
「そう。神楽坂学園の理事長の娘」
どうやら今日の俺は神楽坂さんとつくづくご縁があるようで。
少女は立ち上がって膝に着いた砂を手で払った。
俺も立ち上がってズボンに着いた砂を払った。
「……それじゃあ私帰る……」
立ち去ろうとする少女に俺は慌てて聞きそびれたことを聞いた。
「あ、君の名前まだ聞いてなかったよね? 良かったら教えてくれないか?」
「……苺。遠坂苺。私もあなたの名前聞いてない」
「あぁ、ごめん。俺の名前は風谷天利。同じ学校みたいだし、よろしく」
遠坂はチラリとこちらを振り返ってコクンとうなずいてから少し手を振ってから帰って行った。
ここからが本編だと思ってください^^;