焔の巫女(改編)
少しばかり、イタイ人が出て来ます。ご注意ください。
人を殺してから3日がたった。あれから俺達の待遇は格段に良くなったと言える。飯は全員に3食支給されるようになったし、一定の範囲内であれば自由に動けるようにもなった。だが、それでも皆の顔色は晴れない。生き残った者たちの心には人を殺したという事実が、深く圧し掛かっているようである。そして、訓練も部屋の中から外へと移っていた。今では、全員で外の魔物達と壮絶な生存競争である。負ければその場で魔物の餌となり、帰れば確実に英雄か殺戮兵器への道を進む。8日目の訓練の後、悠斗だけが呼びだされる。呼びに来た騎士に連れられ、ついた部屋で待っていたのはいつも号令をかける大男のワーツシュルトであった。
「貴様がNo.99か・・・」
悠斗の胸には常に数字が刻印されている。あえて確認する必要はないはずだ。
「はい、No.99.あなた達の道具ですが。何か?」
「お前は、ここ最近の訓練で逃げているだけだそうだなぁ?」
悠斗からしてみれば生き残る為に最善をつくしている。奉具もなく、武器もない悠斗では外の魔物に対してダメージを与える事はほぼ出来ない。すでに悠斗の攻撃は外の魔物達の皮膚や体毛を突き破る事は出来ず、逆にこちらの手や足にヒビが入る程に堅いのである。
「生きる為に最善を尽くしているだけですが・・・?間違いでしょうか?」
ドゴォ!
応えた瞬間、頬骨を思いっきり殴られる。
「口答えなど許した覚えはない!!お前は道具だ!生きる?おまえにそんなものは必要ない!!力がないのならば、さっさと死ね!!」
更にもう一発。
先ほどは逆側を殴られる。普通の騎士よりも体格のいい大男に殴られるたびに、悠斗の体が殴られた方向に流れる。流れた方向から再度殴られ、元の位置に戻される。さながら、殴りの往復ビンタである。
(コイツ、あとで覚えておきやがれッ!!)
理不尽な暴力に対して、悠斗の中でそれに抗う意思が生まれる。それを感じ取ったのか
「主人に歯向かうとは何事だ!!身の程を知れ!身の程を!!」
渾身のストレートと胸への拘束が襲いかかる。思わず、膝が崩れ落ちそうになるのを必死に堪えた。
「ほぉ、少しは骨があるようだが、そんなものもお前には必要ない!コイツを懲罰房へ連れて行け!死ぬより苦しい事があるとわかれば、少しは本気になるだろう」
大男ひ下卑た笑みを浮かべながら配下の騎士に指示を出した。
立っているのがやっという状態の悠斗を2人の騎士が引きずるように運んでいく。
運ばれた先は薄暗い牢屋であった。そこに手と足を固定され繋がれる。そして、運んできた騎士たちと入れ変わるように覆面を被った人が入ってくる。
「今回のエモノはこのコですカ、ナカナカ生きが良さそうですネェ」
そのまとわりつくような声は人に不快感しか与えない声だった。
「アララ、あなたも不快だと思いましたネ!ワタシの声は不快だと!ダレもがそうイウ!ナゼダ!ナゼ!ヒトはワタシを愛してクレナイノダ!!」
そりゃ、そうだろう。お前みたいによくもわからない奴を誰が愛すというのだ。愛といのはお前みたいのが語っていい言葉じゃない。
「俺達みたいなヒトデナシが語るような物じゃないんだよ。愛ってのはな」
ヤツが口ずさむ。それは、周りの力を集め力となす技術であり、悠斗たちを縛っている刻印や騎士たちの力の源ともいえる技術である。
〈汝は天の怒り、其は我が敵を貫く刃ナリィ!〉【サンダーランス】
その瞬間、悠斗の左太ももに電気で出来た槍が突き刺さる。
「ガァァァァ!!」
突き刺さった周辺の肉が焼ける。それだけに留まらず体全体に痛みが駆け巡る。その苦悶の表情を、覗き込むように
「オマエはワタシをアイシテクレル?」
「誰が・・お前なんかを愛すんだ・・・よ!!」
痛みに耐えながら、絞り出す。その言葉を聞いた瞬間
「マダ!マダ!ワタシの愛がタリナイ!!モット、モット、モット!!愛を与えナケレバ!!」
その声に応じるように。右太もも、両手の掌、肩といった所に電気の槍が突き刺さる。際限なく続く痛みと、「アイシテクレ、アイシテクレ、アイシテクレル?」と囀る狂声が悠斗の体と脳を焼き続ける。そして、悠斗の体で電気の槍が刺さっていない所が左胸と顔だけになった時、拷問は終わった。狂った男が出て行ったあと、運び込んだ騎士達が悠斗を別の牢へと放り込む。
ドシャァ!!
放り込まれるまま牢の床に叩きつけられた。体は満身創痍といっていい。起き上がるのも、何かを考える事さえ苦痛に感じる。そこまでして俺は生きたかったのかとさえ思う。元の世界では、速く死にたがっていたはずなのにと。そんな思考に陥っている時、牢屋の隅から声がかかる。どうやら、この牢屋には悠斗以外にも先客がいたようだった。
「あの・・大丈夫ですか?先程から動かれておりませんが・・・」
その声は、こんな自己の欲望しかないような暗闇で聞くような声ではなかった。それこそ、陽だまりの中で聞く笑い声であるべき声であった。
「気にしないでくれ。少し、ヘマをした罰を受けていただけだから」
「そうなのですか・・・この牢に入れられる方は珍しかったので。あなたは騎士様なのですか?」
「本気でいってるのか?あんな騎士の恰好をしたよな外道と一緒にされるのは不愉快だ」
そこに含まれる黒い感情を鋭敏に察したのか謝罪をする声。それに悠斗はいたたまれなくなり
「今のは完全に八つ当たりだった。すまない。少し気が立ってたいた。」
「いえ、こちらこそ不躾に聞いてしまいましたから。すいませんでした」
「あーー、そっちは悪くないからな。俺の名前は 加賀田 悠斗。名前が先ならユウト カガタだ。君は?」
「ご丁寧にありがとうございます。私は、リミララ・フレメイア・ドラゴニクス。火の国の第一皇女です。あなたの名前・・・もしかして」
俺に興味があったのか、それとも別の何かなのかリミララと名乗った皇女がこちらへ近づく気配がする。その気配の感じる方向へ目を向けるとそこに居たのはまぎれもなく美少女と呼べるべき存在であった。
牢の窓格子から注ぐ、月明かりに照らされ姿がはっきりと見える。
その身にまとう衣服は薄汚れいたが、地球では目に出来ないような真紅の髪と金色の瞳に透き通るような白い肌。その姿を見ただけで特別な存在だと思わせる輝きがあった。
「きれいな色の髪だな」
思わず口に出た言葉に、クスクスと笑う。
「あなた達は、よっぽどこの髪の色が珍しいのですね。同じ言葉もあの人が言っていました。」
「うん?俺以外にも誰か知ってるのか??」
「ええ、1人だけ。私が呼んだあの人も、呼んだ瞬間に同じ事をいってました。あなたと同じような黒髪の人でした。でも、あなたとはちょっと違う気がします。あなたよりも考えずな所がありそうな人でしたよ」
「あーーーーーー、明人か?」
「アキト?あの方はアキトというのですか??」
「多分な。君が知っってる人物は最初にこっちにきた人物なのだろう?」
「そのように思いますけど、分かるものなのですか?」
言外になぜ分かるのかと問う響きが含まれる。
「俺達にはコレがあるからな」
左胸に浮かぶ数字を指す。それを見てリミララが申し訳なさそうに顔を曇らす。
「この数値をつけていて、No.00を付けてるのが明人だからさ。きっとあってると思うぜ」
「そうなのですか、あなたはやはり私のせいで・・・」
「うん?どーいう事だ?君が何かして俺たちはここに呼ばれたのか?」
そこから簡単に説明を聞くと、リミララは火の国と呼ばれる国の第一皇女で焔の巫女と呼ばれるらしい。そして、焔の巫女は、一生に一度自らの伴侶を呼ぶ儀式を行う。その時の儀式をこの国、聖騎士王国に利用されたらしい。1人を呼ぶ為の門を無理やり維持し、聖騎士王国は俺達を呼びまくったそうだ。それを聞きリミララは俺にただ謝る。私が呼ばなければよかったのだと。
「謝る必要はねぇって。まぁ、確かに思うことはあるけど直接的に悪いのはアイツラでリミララは被害者だろ。それに俺は、明人を追ってきたもんだしな。巻き込まれたっていうより巻き込まれにいったって感じだし、気にすんなっって」
だから、そんな顔をするなと伝える。
「リミララみたいな人は笑ってた方が男にとっちゃ大事なんだよ。そんな事でやる気になる男がいるからな、明人とか明人とか明人だけ」
「アキト様だけじゃないですか」
フフっとリミララから笑みがこぼれる。
「リミララもこんなモンついてるのか?」
そういって左胸のNo.をさす。
「いいえ、それはこちらに召喚した者だけにしか使えない魔法らしいです。だから、私には・・・」
リミララの手と足には白く光る枷がかけられていた。
「歩く分には支障がないのですが、ここから出る事は出来ませんでした。」
それを聞いて、まぁそうだろうと思う。アイツらがそんな温いわけがない。
「ちょっと見せてくれるか?」
「これをですか?」
戸惑いながらも素直に枷を見せてくれる。その光の枷をよく観察する。
「何かわかりました・・?」
「うーーーん、ちょっとね」
そして、突然自分の指を少しだけ噛み切る。流れ出る血をそのままリミララの手と足の枷になすりつける。
「なっ!?何をしているのです!!早く血を止めなくては!」
慌てた様子のリミララに手で大丈夫だと制す。すでにほとんど血は止まっていた。それを見て安堵したようにふぅと息をつく。
「今のは何をしたのですか?」
「さぁ、ちょっとしたおまじないかな?」
「あなたは、何か知っているのですね。でも、教えてくれないのは意地悪ですよ」
そんなんじゃ女性に嫌われるぞと言外に聞こえてくる。
「男も秘密があったほうがカッコイイだろ?」
「私は素直な人が一番だと思います。」
「あー明人は馬鹿がつくほどにまっすぐで素直だぞ。よかったな」
「なぁッッッ!!?」
あまりの狼狽加減に笑みが漏れる。更にリミララは顔を赤くするが、途中で諦めたようだ。
「これから、あなたはどうするのですか?」
「うーん、とりあえずココは潰す。死んでいた奴らの恨みは離さないとならないだろ。あとは決めてないかなー。こっちの世界の事は知らない事ばっかりだし」
「潰す・・・大それたことをお考えなのですね。私としてもぜひともお願いしたいところですが、それどころじゃないのではないですか?」
「うん?どーいう意味だ??」
悠斗からすれば、魔物と戦ってはいるが、リミララが気にしているような事象に心当たりがなかった。
「今、この国は魔物達の行進が始まったばかりです。あなた方もここ最近は外で戦っているのでしょう?」
それに悠斗は頷く。
「魔物の行進は、徐々に力の強い魔物が現れます。それでも、それぞれの国の戦力をもってすれば退けられるのです。ですが、稀にそれ以上の存在、災厄の魔物が現れることがあるのです。」
「それが今だというのか?」
はい、そうですとリミララは頷く。
「そして、今回は、あなた達を使って自軍の損耗を防ごうという考えなのでしょう。だから、使い捨てのようにあなた達を戦場へと送るのです。」
どこが騎士王の国だ。ただの外道でしかない。この国は腐っていると、腐りすぎて周りに害をなすだけの存在だと改めて思う。
「おそらくは、1人または有望な数人のみを引きぬき、あとは、災厄の魔物と相撃ちもしくは少しでも相手の力を削る為だけに使うと思います。」
「ああぁーすでに何人か引きぬかれてるわ。ってことは、災厄の魔物とやらの出現は近いのか?」
おそらくはとリミララは答える。
「ありがとなー、参考になったわ」
「これくらいしか、役に立てませんので。」
「そんな事ないけどな、俺もこっちじゃ知らないことばっかりだし、十分助かる。まだ、ここから出されるまで時間がありそうだから、少し教えてくれると助かる。」
「私で分かる範囲ならお答えします」
そして、そのまま世は更けていくのであった。刻一刻と、命をかけた決戦の時は迫っていた。牙を隠しながらも悠斗はリミララとの生きた会話を楽しむのであった。
悠斗はリミララの声が、こちらの世界に来るときに聞いた声に若干の、既視感を感じるのであった。
お読みいただきありがとうございました。
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