力とは何か(改編)
牢屋へと閉じ込められた瞬間、蜂の巣を突いたような騒ぎになる。どこもかしこも、どういう事なんだよ、知らないわよとか、家に帰してくれとか騒いでいる。その五月蠅さに悠斗は顔を顰める。そして、あまりの五月蠅さに警備役の騎士の怒号が聞こえる。
「黙れ!静かにしていろ!!」
その瞬間、部屋にいた全員が胸を押さえて蹲る。いわゆる連帯責任というやつらしい。それをみて他の牢屋もすべて静かになった。
「静かにしてろ」
まるで、ゴミをみるような目で騎士は牢屋の入り口に戻っていった。騎士からしたら俺達はゴミ同然なのだろう。
部屋に居た皆が、絶望を感じ静かになったようだ。自分の命が握られている事をようやくあの場所にいた全員が理解した瞬間だった。
ただ1人、悠斗はというと、
(これがファンタジー・・・・王道系の召喚系で英雄にっていうテンプレじゃないけど、これはこれで中々楽しめそうだ。)
顔が思わずにやけてくるのを自制しながらも心はそれなりに昂ぶっている。
(平凡な日常には飽きた。これからは毎日が刺激的で、刹那的で、情熱的に命を燃やす日々になりそうだ。心はHoTに頭はCooLで。俺は生き続ける。)
静かに意気込みを秘める。今は、まだ雌伏の時。牙は最後の最後に見せればいい。いまできる事、それは、置かれている状況を正しく理解し、正しく動くことが必要だ。
(丁度良い、うるさくて考えをまとめるのが大変だったからな。この静けさ位が丁度良い)
今までの事をまとめると
1.俺達は、魔物や他国との戦いの道具としてこちらの世界に引きづり込まれた。
2.『奉具』とやらの力がある。(目覚めていない)
3.左胸に数字の入った刻印がある。(No.00~No.99)
4.命を握られている。
5.命令権はほぼ相手側全員にある可能性。
これくらいか。俺の数字はNo.99だった。ということは、俺が最後ということらしい。No.68の殺し方から察するにある言葉や感情をトリガーにして発動するのだと思う。今のとこ、大事なのは生き残る事。そして、『奉具』とやらを目覚めさせること。
奉具が使えれば、利用価値があると判断されるはずだ。
この時の判断は甘かったと翌日悠斗は思い知る事になる。
怒鳴り声が聞こえ、目が覚めた。
見上げた天井は、まっくらでいい目覚めとはお世辞にも言えない。いつもなら、もう一度寝ようとするが、今はそうはいかない。無駄な怒りは、命に響く。騎士に先導され、大広間へと集合させられる。
また壇上には、ワーツシュルトという大男が立っていた。
「よく聞け!道具共、すでに目覚めた奴もいるはずだ。もう一度、言う。よく聞け!俺達が欲しいのは力が強い奴だけ!分かったな!」
いきなり、朝っぱらから怒鳴る大男に不快感を感じたが、顔には出さない。出せば何されるかわかったもんじゃない。
「朝食の時間だ!力がある奴だけが食べられる!!」
大男が指した先には朝食があった。確かに朝食があった。が、この人数に対して絶対的に量が少ない。それが意味するのは
(奪いあえという事か!!)
瞬時に理解した何人かが朝食めがけて走り出す。それに呼応するように、皆が続き始めた。それを見た一部の力に目覚めていた奴等が、我先にと群がるハエを振り払うように、力を振った。振われた力により吹き飛ばされる弱者。それをみて悠々と進む強者。
「そうだ!それでいい。弱い奴に用はない!!」
部屋に響くのは大男の声だけだった。そして、弱者と強者、搾取される側とする側が決まった瞬間でもあった。
悠斗はというと、走り出した一団には入っていなかった。大男の言った意味を、早い者勝ちという事にも気づいてはいたが、動こうとは思わなかった。なぜなら、大男が力に目覚めている奴がいると言ったからだ。そして案の定、その力を持った奴がいて、その力を使うだろうと推測した。そいつらを深く観察する。『奉具』とはどんなものか、何が出来るのかといった事を。腹は減っていたが死ぬわけではない。だからこそ、余裕がある今、情報はできるだけ集めておきたかったのだ。
(奉具ってのは、武器のようなものか。目覚めている奴らの大半が剣のようなものを持っているな。だが、此処に集まるまでは誰も持ってはいなかった・・・・という事は自由に出し入れできるって訳か。あと1つ、比較的No.が若い奴の方が多いように思えるな。No.が若い方が目覚めやすいのか?)
注意深く観察してみると、No.の若い方、特に一桁台のNo.00~09は全員が目覚めており、他のNo.よりも感じられる力も大きいように思えた。そして、自分の親友である 赤城原 明人を見つけた。明人のNo.は00。最初に呼ばれた道具であり、奉具は太刀であった。
自分のNo.は99。そして、奉具はなし。現時点での差は限りなく遠い。
こっちは力もなく、廃棄寸前の道具かもしれないが、それでも自分の意思だけは捨てない。
(見てろよ、俺とおまえは親友であり、ライバルだからな。お前には絶対に負けねぇから)
胸に消えない炎を抱き、悠斗はこの地獄を生き抜く事を決めた。
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