自分達の立場(改編)
穴を踏み越えた瞬間、目の前に暗闇が広がった。その中を下へ下へと沈み込むようにひたすら落ちていく。その途中、途切れながら声が聞こえた。
「だれか…たすけ…わた……けて…」
こちらから、答えても反応はなかった。ただ声だけが聞こえ、反響するなかをひたすら落ちていく。そして突然目の前に光が広がり、石畳の上に叩きつけられた。
「ガァッ!?」
(いてーぞ、オイ!いきなり何しやがる!!)
よくわからないが、背後にいる何者かに後頭部を叩かれたようだ。そして、頭上で何やら声がする。
「ŒšŔńIJƓǓǂɲɲ、ʤʡʠςδѤфФёѠѴӔӁӂ!!」
何を言ってるのかサッパリ理解できなかった。なぜなら俺の語学力は自慢にならないほどに悪いが、それ以上に聞いたことがない発音であった。
(その前に言語か?)
理解は出来なかったが、とりあえず声のする方に目を向けてみた。その瞬間、光が目に突き刺さった。
「ぐっ・・!!」
暗い部屋の中を照らす閃光に対応出来ず、おもわず呻く。そして、激痛が頭と左胸に起こる。その痛みに、外聞とか投げ捨てて絶叫する。
「うがぁっぁぁぁ!やめろ!!やめてくれ!!」
「静かにしろ!!手をかけさせるな!おとなくしてろ!!」
そして、また頭を殴られた。俺は、無理やり脳みそに何かを刻まれる痛みと鈍器で殴られる衝撃を感じ、意識を手放した。
気がついたのは人混みの中だった。周囲にいるのは俺とほぼ同じ日本人。遠く離れた壇上に少数の人影が見える。よく周囲の人を観察してみると、皆若い。さほど俺と年齢は変わらなそうにみえた。
(ニュースでいっていた行方不明者か・・・?)
確証はなかったかが、直感がそう告げているように感じた。ざわめく群衆を静めるように壇上から、大男の怒声が聞こえた。
「静まれぃ!!きさまら如きの為に我らが王が来てくださった!!静かにせんか!!!」
その声を聞き、壇上の身なりの良い男が前へ進み出る。
「ワーツシュルト殿、気にするな。まだ、状況が飲み込めていないだけだろう」
その声は、決して大きくはなかった。だが、そこには有無を言わせず聞かせるだけの力がある。
そして、ワーツシュルトと呼ばれた大男を手を振る事で下げさせる。
「諸君、ここに集まってもらった諸君よ。汝らは我が国の尖兵としてまたは英雄として呼ばれた者たちだ。諸君には、ここで『奉具』に目覚めて貰い、来るべき魔物との戦い、他国との戦争に出て貰う。」
その瞬間、どよめきが起こった。それを静める為、ワーツシュルトが再び声を上げようとするのを王は手で制した。
「諸君らが、困惑するのは無理もない。が、諸君、君らの胸を見て貰いたい。数字があるのがわかるかな?それは諸君らの、名前だ。諸君らは人ではない。我が国の道具である!」
王はにこやかな笑みを浮かべたまま言い切った。
それを聞いた瞬間、前列にいた男が声を上げた。
「ふざけるな!何の権利があってそんな事を言っているんだ!!」
確かにその通り。俺達現代人の感性から言わせれば、理不尽極まりない。だが、今の状況で俺たちに人権があるかと言われれば、間違いなくノーだろう。それは、王も同じように考えているようだ。
「うん?No.68.発言は許可していないぞ」
「俺にはれっきとした名前がある、道具じゃない!!」
「No.68を除く諸君よ、良い機会だ。よく見ておけ。No.68を【廃棄する】」
王の宣言と同時に、No.68と呼ばれた男が苦しみ出す。左胸を掻き毟りながら悶え苦しむ。そして、会場に人が倒れるような音が響いた。
「諸君、わかったかな。諸君らの立場を。諸君らは我が国の道具だ。諸君らも都合がよくない道具は捨てるだろう?それと同じだ。ココに居る100の道具・・・失礼、99の道具に言う。生きたいのであれば、従順であれ、強くあれ。諸君らが使える道具であることを私は切に願うよ」
王は言いたい事だけをいい、壇上から姿を消す。
そして、ワーツシュルトという大男が、変わりに前へ進み出る。
「わかったか!お前らの存在が、お前らはただの道具だ。我らに歯向かえば待っているのは死のみだ!覚えとけ!」
声を張り上げながら、指を指しているのはNo.68と呼ばれた男の亡骸であった。そして、俺達、99人の道具達は、いくつかのグループに分けられ、牢屋へと閉じ込められるのであった。
お読みいただきありがとうございます。
勇者にしろ、呼びだされる側は道具扱いってのは真実かなと思ってます。
お気に入りしてくれた方、ありがとうございます!稚拙な文章ですがお付き合いください。
感想、誤字指摘等、よろしくお願いします。