事業仕分け
まだ、郵便全盛期の時代。
財政に苦しんだ政府は事業仕分けにより様々な予算を減らそうとする。
「どうやら我々の研究所も事業仕分けの対象になったらしい。私が代表者として会場に行かされるみたいだ」
「そのようですね。しかし、大丈夫でしょう。我々が考えたインターネットという技術。これが完成すれば我が国の収入はうなぎのぼりになることでしょうから。予算が増えることはあっても減ることはないと思いますよ」
「そうだと良いな。だが、事業仕分けをしているのは、どうやら科学というものに対して全くの無知な奴らだという話だ」
「おかしな話ですよね。技術というものを詳しく知りもせずに、必要か不要かを判断するなんて」
「まったくだ。しかし、国民も大多数が事業仕分けに賛成しているらしいから、政府も人気取りのためにはどんどん予算を削減していかなければならないのだろう。当日のことを思うと憂鬱になるよ」
「ですから、心配することはないですよ。インターネットのもたらす恩恵について説明すればきっとわかってくれます」
そして事業仕分けの日がやって来て、研究所の代表者に選ばれた男は事業仕分け会場に向かった。
事業仕分け会場には大勢の観客が周りに座っていて、テレビカメラや新聞記者などが会場の中をうろついていた。男は会場の中心にあった椅子に座り、目の前にある誰も座っていない席を見ていた。
「これではまるで、裁判所の被告人になったかのような気分だな」
男は今の状況を考えて、独り言をボソリと呟いた。
待つこと5分、今日の敵とも言える、政府から選ばれた仕分け人が男の前の席に座った。男は驚いた。いくらなんでもこれはあんまりだと。
はたして、男の前に座った仕分け人は、まぎれもなく『猿』であった。
事業仕分けは始まる。男は悩んでいた。いったい何を話せというのだ。こんなやつにインターネットの素晴らしさを理解してもらうことなどできるわけがない。だいたいこいつは、事業仕分けというものを本当にわかって私の前に座っているのだろうか。
事業仕分けは進む。といっても猿が一方的にキーキー騒いでいるだけで、男のほうはまったく話していない。いや、男はさすがにまずいと思い、インターネットについて説明するのだが、相手は猿。そもそも男の言葉すら理解出来ていないようであった。これでは、話をしたところでどうにもならない。
決められた時間が経ったあと、事業仕分けは終わる。すると、偉そうな態度で、スーツを着た男がやって来て猿に紙とペンを持たせる。
猿は嬉しそうにはしゃいで、紙に書いた。
『×』
技術がどんなにすごくても、一般人には普及しないとわからないものです。