二次元キャラ召喚ゲート
アニメや漫画のキャラクターが現実来ることができるようになるゲート。
「やった。ついにできたぞ」
男はなにやら怪しげな装置の前で声を上げた。男が作った装置は二次元キャラ召喚ゲート。アニメや漫画のキャラクターを、この世界に召喚することのできる装置である。
男は生まれてこのかた、女性に対して愛だの恋だのといった感情を持ったことがなかった。男にとっての唯一の恋人、それは科学であった。科学を研究しているときだけが男にとって至福の時間であり、男の人生は研究に捧げてきたと言ってもいい。
しかし、そんな男にあるとき出会いがあった。男が研究に使う機材を購入するために街を歩いていると、ビルについている大きなモニタから楽しげな音楽が聞こえてきた。男にとって音楽などというものは何の価値もないものであったため、男はモニタを見ようともせずに歩き続ける。
ふと、かわいらしい声が聞こえてきた。男にとっては早く研究を始めることが最上の選択であったが、その声がどうにも気になる。こんなことは今までなかったのだが。
男は周囲を見渡す。この声を発している人間が、どんなやつなのかを確かめてみるのも悪くはないだろう。そして、男は恋をすることになった。しかし、それは実ることのない恋であった。
可愛らしい声の主は、モニタに映っているアニメキャラだったのだ。
男は自分の研究所に戻り、頭を抱えた。俺の恋人は科学ではなかったのか。それが女などに、しかも、相手はアニメのキャラクターだ。現実の女ならまだしも、アニメのキャラクターが相手では、この気持ちはどこにぶつければよいのだろうか。
男は予定していた研究にとりかかる。しかし、男の頭からはあのモニタに映っていたかわいらしい女の子の映像が離れず、気がつけばあのキャラクターについて調べてしまう。
男は付きとめた。あのキャラクターがこの国でとても人気なアニメのヒロインであることを。さらに、何人もの自分以外の男があの女の子に実るはずのない恋をしていることを。男の中で情熱が沸き起こった。絶対にこの恋を実現してみせる。
そして、何十年もの時をかけ、男は二次元キャラ召喚ゲートを完成させた。
男はゲートにアニメの名前を入力し、接続を開始する。すると、ゲートの向こう側にとても現実とは思えない風景が広がっていた。思わず手を伸ばしてみるが、その手は向こう側に届くことはなかった。ゲートを通れるのは、向こう側の奴らだけなのである。
ふと、風景を眺めていると、一人の少年がこちらにやって来た。不思議そうに見てくる少年に、おいで、と告げて呼ぶ。この少年はあのヒロインの弟であった。
「おじさん。これいったいどうなっているの?」
「これは私の世界と君の世界を接続するゲートだ」
「へぇ、よくわからないけどすごいや」
「そうだろう。ところで、君には姉がいるだろう。その人を連れてきて欲しいんだ」
「いいけど。どうして?」
男は適当な嘘を並べ立て、純粋な少年に納得させて、ヒロインを連れてきてもらう。
「わあ、すごい。これいったいどうなってるのかしら」
やって来たヒロインは興味深げにゲートと男を見ていた。
「お嬢さん。ちょっと手をこっちに伸ばしてみて」
男が頼むとヒロインは少し警戒しながらも恐る恐る手を伸ばしてくる。どうやら好奇心が勝ったようだ。
ヒロインの手がゲートから出てきた瞬間、男は手を掴みヒロインを現実に引きずり込む。そして、ゲートの接続を終了した。接続したままでは、向こうの人間たちやこちらのヒロインが自由に行き来できてしまうからだ。
こうして現実の世界に着てしまったヒロインは驚き、また、元の世界に戻れないことを知ると狼狽し、終いには泣き出してしまった。
「無理やり連れてきてすまなかった」
男は謝るが、ヒロインは聞く耳を持たない。泣いたまま男を非難してくるだけである。
もとの世界に返してやるべきかとも男は考えたが、これまでの研究に費やした全てを考えると、その選択肢を選ぶことができなかった。
男とヒロインの奇妙な生活が始まった。男は彼女に対して罪悪感を感じていたこと、また心から彼女を愛していたため、彼女が好きそうなものをなんでも与え、綺麗な風景が見られる場所に連れていったりもした。
しかし、ヒロインは喜ばなかった。彼女にとっては現実が自分の世界ではなかったし、あの世界にいた人たちが大好きだったからだ。そしてなにより、告白をしてはいなかったものの、もう少しで大好きな主人公と付き合うことができそうでもあった。
男は悩んだ。ヒロインは好きだ。だが、自分の力では彼女を喜ばせることができないことはわかりきっている。昨夜に彼女が寝ている時も、寝言であのアニメの主人公の名前を呟いていた。彼女の心はすでに主人公のもとにあるのだ。
男は悩みに悩み、ヒロインをもとの世界に戻してやることにした。
ヒロインは帰ってしまった。最後まで男に対して笑うこともなく、ゲートを接続した瞬間に走って行ってしまったのだ。男は深く絶望した。こうなることは当然のことだったのかもしれない。
絶望の淵に立っている男はゲートにあるアニメの名前を入力する。そして、ゲートを接続したあとに、男は帰らぬ人となった。
男が接続したアニメは、一瞬で人間を殺すことができるウイルスが蔓延し、人間が存在しない世界になってしまった設定のものであった。