悪魔に願い事
男の前に突然悪魔が現れた。
悪魔は願いをいくらでも叶えてくれるという。
男は悪魔を警戒していたが、悪魔は一つの提案をする。
「あなたの願い事をいくらでも叶えてさしあげましょう」
突然目の前に現れた悪魔が、俺にわけのわからないことを言った。
「悪魔の言うことなど信じられるわけがないだろう」
まったく、悪魔というやつは。これだけ娯楽というものが氾濫している世界で、悪魔の甘言に騙されるやつなどいるはずがない。願い事を叶えるだけ叶えて、魂でも取って行くつもりなのだろう。
「わかりますよ。魂でも取られるのでは、と警戒しているのでしょう」
「なんだ。わかっていたのか。それでは俺に悪魔の囁きが意味のないこともわかるだろう」
「ええ。ええ。わかっていますとも。しかし、私は端からあなたの魂を持っていくつもりなどございません」
「信じられるか。その場合お前は損をするだけではないか」
「そんなことはございません。もちろん私は悪魔ですので人間の不幸が好物ではありますが」
「ほら見たことか。やはり俺を騙そうとしているな」
「いえいえ。あなたは願い事が叶うだけで、何も失いません。魂もお金も地位も名誉も。得ることはあっても失うことはありません。しかし、このままでは願い事を言って頂けないようなので、一つ提案をしたいのですが」
「ほう。良いだろう。その提案を聞いてから考えることにしよう」
悪魔の提案など真に受けるはずはないが、聞いてみるだけならただである。
「ありがとうございます。それでは提案なのですが、まず、私に願い事をして頂きたいのです」
「だめだ。願い事を言っては、魂を持って行かれるではないか」
「ですから、私は魂など持っていかないのですが……。まあ、いいでしょう。仮に私が嘘をついていて、願い事の代価に魂を持っていく悪魔だったとしても、あなたは『私があなたから何も取らないこと』を願えば良いのです。そうすれば、私はあなたから何も取ることができません」
なるほど。俺が失うものは何もないというわけだ。まだ、悪魔が本当に願いを叶えてくれるのかは不明だが、それならば願いを叶えるなど言わずに最初から魂を取っていくのではないか。
そうしないということは、悪魔は願い事の代価でしか魂を取って行くことができないに違いない。どのみち何も失わないのだから、願ってみるのも悪くない。
「わかった。では私から何も取らないことを願う」
そう言ったあと男は倒れピクリとも動かなくなった。
「嘘をついていて申し訳ございません。代価はもちろん頂きますし、先払いなのですよ」
初めて書いた作品です。