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悪魔と組んだ人間

更新!

「いやぁ、どうもどうも」


突然街中で俺の目の前に現れたその怪しげな男は、不信な目で睨みつけている俺に構わずに、自らを悪魔であると名乗った。


「いや、最近はね。結構派手にやらかしてる悪魔が多いらしくてね。多いんですよ。悪魔に騙されないように知識を付けちゃってる人間が」


相変わらず睨み続けている俺に対して、一切の動揺を見せない男は苦々しい表情で大袈裟なアクションをとって悲しそうな振りをしている。


「で、あなたもそのタイプでしょ? 俺は絶対に騙されないぞって考えちゃってるやつ」


悪魔に対しては言葉を交わさずに無視を続けることが一番の防御になる。誰でも知っているそんな防御策を続けながら、俺は考えを巡らせる。


この男が本当に悪魔かどうかは不明ではあるが、言っていることは実は至極当然のことであった。


悪魔の存在が認められてから早数年。たしかに、これだけ大勢の人間が悪魔の甘言に騙され魂を持って行かれていることを知っていながら、それでもまだ騙されるやつなど、馬鹿を超えた大馬鹿であるだろう。


「でね、最近は本当に大変なんですよ。私も魂を食べなきゃ死んじゃうわけで。でも、素直に騙される愚か者はなかなか見つからない。いやぁ、困っちゃってね」


俺が口を噤んでいると、男は調子にのって全身で悲しみを表現し始めた。悪魔の事情も中々大変なようだ。


「そこで、ですよ。私は考えたわけです。そうだ、賢い人間と協力すれば良いんじゃないかって」


ふむ。一体どういうことであろうか。どうやらこいつは私がなかなか騙されない人間であることを自覚しているらしい。そんな私と協力して何か得になることでもあるのだろうか。


「あなたと協力してね。騙すんですよ。人間を。私一人で騙そうとすると、どうしても警戒されてしまうんです。でも、人間と悪魔が組んでるなんて、誰も想像しないでしょ。その穴を利用するわけです」


なるほど。確かに人間と悪魔が協力すれば人間を騙しやすくなるのかもしれないな。しかし、私にはなんのメリットもない。こいつに付き合ってやる必要もないのだ。


「まあまあ。仰りたいことはわかります。あなたには協力する理由がないってことでしょう? 大丈夫ですよ。人間を一人騙すことができたら、一つ願いを叶えて差し上げられるのです。いや、実はこれ、生まれながらに悪魔が神と交わしている契約でして。我々悪魔は、誰かの魂をとると、必ずその人間の願いを叶える必要があるのです。もし叶えなければ、我々は死んでしまうのですよ。で、当然我々は人間の願いを叶える代わりに魂を頂いていたわけなんですが、このご時世でしょう。素直に願いを教えてくれる人間もいないわけです。あなた方人間が、さっさと魂を差し出してくれるのであれば、本当は騙したりする必要もないんですよ?」


なるほどなるほど。だんだんこいつが言いたいことが読めてきたぞ。つまり、こいつと手を組んで、誰かの願いを聞かせるように俺が動く。こいつはその誰かの願いを叶えてそいつの魂を頂く。そして俺は魂を取られたそいつの願いを丸ごと頂く、ということだな。


「お分かりいただけたようですね。いやぁ、あなたを選んで正解でした。なかなか賢いようで」


ここまできて、俺は始めて口を開いた。


「言いたいことはわかった。もちろん俺にも叶えたい願いの一つや二つは当然ある。で、いったい俺はどうすればいいんだ」


その男は始めてニヤリとした顔を見せ、嬉しそうな表情を作った。


「ご協力いただけるようでありがとうございます。なに、簡単なことですよ。あなたが叶えたい願いを持っていそうな人間に話しかけて頂いて、私がそばにいる状況で願いを聞き出せばいいのです。その願いが私の耳に入った段階でーー」


「お前がその人間の魂をとり、俺がそいつの願いをとる、そういうことだな?」


「おっしゃる通りでございます。ただ一つ、間違っても私にあなたの願いを聞かせることがないように。そうなると私はあなたの魂を頂くことになりますので」


「そんなことぐらいわかっているさ」


俺はこの怪しい男と、二人並んで歩き始めた。



歩きながら考える。いったいどんな願いを叶えさせるのが良いであろうか。女にモテる願いを叶えさせたところで、俺がその願いを横取りするのは不可能ではないだろうか。なにせモテるのは魂を取られたやつなのだから。そうなると、やはり金だな。大金を願わせて、俺が頂く。結局この世の中金があるやつが偉いのだ。


考えをまとめた俺は近所にある河川敷に向かうことにした。なぜならそこはホームレスの溜まり場であり、ホームレスこそが最も金を欲しているやつらであることは間違いないからだ。


「あそこにいるホームレスと少し話してくる。お前はここで待っていろ」


ホームレスから少し離れた、会話を聞き取れなさそうな距離で怪しい男にそう告げた。


「えぇ、あの人間にするんですか? 嫌だなぁ。あんまり美味しそうな魂に見えませんけど」


その後もいちいちブーブー文句を言う男に付き合って、俺はホームレスの品定めをする羽目になった。やっとのことで、ターゲットに決めたホームレスは、意外にも溜まり場で最も老けていて汚なく見えるやつだった。


「本当にあいつでいいのか。俺には旨そうな魂を持っているようには見えないが」


「人間の方にはわかりませんよ。誰の魂が美味しそうに見えるかなんて」


確かにそうかもしれないと思い、俺はそのホームレスに向かって一人歩き始めるのだった。


「よう、あんた。欲しいものがあるだろ? 大金を手に入れたいと思わないか?」


ホームレスの目の前に腰を下ろして、俺は話しかけた。しかし、ホームレスから帰ってきた言葉は意外なものであった。


「わしゃあ、なんにもいらんよ。生きてるだけで充分だがね」


俺は驚いてしまった。そもそも金がなければ生きていけないではないか。このままでは俺は金を手にすることができない。そう思って慌ててまくしたてる。


「そんなことはないだろう。あんたも金を持って人間らしく生きていけたらと思っているはずだ」


「いやいや。この生活も悪くないもんだがね。人間らしく生きる必要など、わしにはないんだ。あんたは違うのかい?」


「金さえあればなんでもできるぞ? 女だって旨い食い物だって、高級な住居だって手に入れることができる。どうだい? 大金を手に入れてこんな生活やめちまおうじゃないか」


「いらんよ。あんたは欲しいのかい」


「もちろんだ」


途端にホームレスの顔が歪み、俺は自分の魂が抜き取られたことに気づく間も無く死んでしまったのだった。


遠くから一連の流れを眺めていた怪しい男は、ホームレスの目の前に歩いて行き、落ちている金を拾いあげる。


金額を確認した男は、魂を抜き取られた人間を気にも留めずに、ホームレスに話しかけた。


「どうも悪魔さん。私のような賢い人間と組んで正解だったでしょう」

久々に書くと意外に楽しいもんですね。

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