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優しい嘘

眠い……。

22世紀、世界は統一され、ひとつの地球という国家となった。


地球国は国民全員の投票によって選ばれた大統領によって治められていた。



「大統領。いったい何をしているのですか」


「支持率を見ているのだ。しかし、下がるいっぽうで、上がる気配がない」


大統領は支持率メータを見ていた。支持率メータは22世紀の初頭に開発された、世界中の人の支持、不支持をリアルタイムに表示することができる装置である。


「世界がひとつの国となったといえ、犯罪も小競り合いもなくなったわけではありませんからね」


「だが、支持率4%とはいったいどういう事だ。私は確かに、歴史に残るほどの功績を出したとは言えないかもしれないが、これといった失策も施した覚えはないぞ」


「良いではないですか。支持率4%ということは4億人もの国民が支持してくれているということですよ」


「100億人の内、4億人が支持しているからといって、何になるのだ。残りの96億人は不支持ではないか……」


大統領は、支持率メータの前で肩を落としていた。


「そうお気を落とさずに……。ところで、大統領。宇宙担当長官が話をしたいとのことです」


「……わかった。すぐに行く」


大統領はいったい何があったのだろう、と考えながら宇宙担当長官の元へと向かった。



「大統領。大きな問題が発生しました」


宇宙担当局に到着した大統領を迎えたのは、ブクブクと肥えた体格に似つかわしくない表情をしている宇宙担当長官。


これはよほどの問題なのだな、と大統領は気を引き締める。


「巨大な彗星が地球に向かっています。このままでは一月後には、地球に衝突してしまうでしょう」


予想以上の問題に大統領は少し面食らってしまう。


「そ、その彗星が地球に衝突するとどうなるのだ」


「間違いなく人間は、いや人間だけでなくすべての生物は、滅びることになるでしょう」


「なんだって! 衝突を回避する方法はないのか」


「ございます」


「なんだ。ではなんの問題もないではないか。で、その回避策というのはどういった方法なのだ」


「それはですね……」


「ふむふむ」



一通り、回避の方法を聞いた大統領は、一つの嘘を思いついた。うまくいけば、支持率の上昇は間違いなしだ、とほくそ笑んだ大統領は、マスコミたちを呼び集め、国民に向かって演説を行った。


「国民の皆様。今日は大事なお話がございます。今、地球に巨大な彗星が向かって来ています。我々はあらゆる策を施しましたが、全てが水の泡となりました。彗星が衝突するのはちょうど一月後です。それまでに覚悟を決め、最後の時間を自分の思うままに過ごしてください」



国民は慌てた。一月後に皆、死んでしまうのだ。


争いはなくなった。最後の時間を争いなどに使っている場合ではないのだ。


犯罪もなくなった。人を殺して何になるというのだ。皆、死を覚悟し、最後の時を過ごす者同士、仲良く暮らした。最後ぐらい、優しい人間でありたかったのだ。


独り身の者は好きだった異性に想いを告げ、家族を持つ者は最後の時を、皆で安らかに過ごすことに決めた。


料理人たちは、今まで培った全てをかけた料理を作り、無償で人々に提供した。


音楽家たちは、最後は笑ってなどと、歌を作って皆に聴かせていった。



やがて、時は過ぎ、とうとう衝突まで一日をきった。


「大統領。そろそろ良いのではないですか」


「そうだな。ではマスコミを呼んでくれ」


呼ばれたマスコミたちは嫌そうな顔をして、大統領の元に集まった。皆、大統領の言葉を伝えるよりも、死ぬ前にやっておきたいことがあったのだ。


「どうも、皆様。今日はお話がございます。彗星が地球に衝突すると、前に私が言ったときから、皆様どのようにお過ごしでしたでしょうか。自分にとって何が大事なのかを、確認することができたのではないでしょうか」


国民は頷く。どうせ死んでしまうのに、争いなど何の意味も持たないことを確認できた。


「実は、衝突を回避する方法はまだあるのです」


国民は驚く。つまり、大統領は嘘をついていたということか。


「私が持っている核ミサイル発射スイッチ。このスイッチを押すことで、彗星を粉々にしてしまうことができます。そうです。私は嘘をついていました。しかし、皆に知ってもらいたかったのです。本当に大事なのは争いなどではないということを。私は確かに嘘をついた。しかし、これは優しい嘘です」



国民たちは最初は戸惑っていたが、やがて、大統領を賞賛する声がのぼりはじめた。その声は次第に増えていき、世界中を包むこととなった。



「やりましたね。大統領。支持率が急上昇しています」


「そうだな。見ろ。95%を超えたぞ」


「これはすごい。大統領。あなたは歴史に残るでしょう」


「……私は幸せ者だ。最後にこのような支持率を得ることができたのだから」


「何を言っているのです。これからではないですか。さあ、核ミサイル発射スイッチを押してください。そのスイッチは大統領でないと押すことができないのですから」


「スイッチは押さんよ。私は、この支持率と共に死ぬことにする。もう、支持率が下がっていくのを見るのは嫌なのだ」


そう言って、大統領は拳銃で自らの頭を撃ちぬいた。


部下たちは慌てた。スイッチを押さなければ彗星が衝突してしまう。しかし、大統領でなければスイッチを押すことはできない。新しい大統領を決めるにも、一日ではどうすることもできない。



支持率は100%に到着し、地球上は大統領を賞賛する声で包まれていた。

大統領! 大統領!

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