誓い
天災。
兄が亡くなった。
「他にも家族を亡くした人はたくさんいるのだから、私達だけが悲しい訳じゃない。だから、泣くのは我慢しなさい」
母はそう言って、涙ぐむ私の頭を撫でてくれた。
そんな理不尽な事は無いと思った。
肉親である私達が泣かなければ、一体誰が兄のために泣いてくれるのだと言うのだ。
そして、私は声を上げて、力いっぱい泣いた。
兄への弔いだ。
母は周囲の人に「すみみません。すみません」と頭を下げながら、私をなんとかなだめようとした。
薄情な親の言う事である。
聞く必要など無い。
私は泣き続けた。
それから年月が流れ、私はあの時の母と同じセリフを自分の子供に言っている。
旦那が死んだらしい。
まだ遺体を確認した訳ではない。
何処かで生きていると信じたかったが、可能性は限りなくゼロに近かった。
我が子は私の服を掴み、気丈にも耐えていた。
もしかしたら心の中ではあの頃の私の様に薄情な親だと思っているかもしれない。
けれど、それでも今は泣かない。
何もできない私なんかにすがってくれるこの手のために。
泣かない。
後で思いっきり泣いてあげると誓いをたてて。