■ 第一話 「ピンポーンと非日常」
(▭-▭)φカタカタ:(ΦωΦ)フフフ…この子達の名前には深い意味はありません。
キーボードを叩く音だけが、部屋に響いていた。
止まる。
数秒考えて、また打つ。
そして消す。
……進まない。
神無月龍凱は、椅子に深く沈み込んだ。
机の上には開きっぱなしのノートパソコン。
画面には書きかけの文章と、別タブで開かれた小説投稿サイト。
読むのは早い。書くのは遅い。
いつものことだ。
ベッドには脱ぎっぱなしの服。
床には空になったペットボトル。
カーテンは閉め切られ、時間の感覚は曖昧。
それでも生活には困っていない。
たまに、呼ばれるからだ。
——ピンポーン。
間延びしたチャイムが鳴る。
龍凱は一瞬だけ手を止めた。
……無視するか。
——ピンポーン。
二回目。
小さく息を吐いて、立ち上がる。
玄関までが妙に遠い。
ドアを開ける。
「はーい……」
そこにいたのは、見覚えのない作業服の男たちだった。
「お世話になります。設置に参りました」
「……は?」
返事をする前に、男たちは当然のように部屋へ入ってくる。
靴を脱ぎ、迷いなく進み、部屋の一角を見て頷いた。
「こちらで問題ありませんね」
「なんで知ってるんですか」
男の一人が端末を確認しながら答える。
「事前に共有されていますので」
誰に。
疑問が浮かぶ間にも、機材が運び込まれていく。
黒いフレーム。
ケーブル。
そして中央に据えられるヘッドギア。
——その側面。
刻まれたロゴに、視線が止まる。
プロゲーミングチームのマーク。
見間違えるはずがない。
そこでようやく、全てが繋がった。
「……あいつか」
スマホを取り出し、履歴の一番上に発信。
一回で繋がる。
『お、気づいたか』
「お前か」
軽い声。
神無月竜星。
数少ない知り合いであり、こういうことを平然とやる男。
『どうだ、サプライズ』
「説明しろ」
笑っているのが分かる間。
『このゲームやろーぜ』
あまりにも軽い一言。
視線が、もう一度ヘッドギアへ向く。
ロゴが妙に目立つ。
準備は最初から整っていたらしい。
「ちょうどよくねえだろ」
『暇だろ』
言葉が詰まる。
部屋を見渡す。
進まない原稿。
特に予定のない時間。
……否定はできない。
『気が向いたらでいいって。ログインすれば分かるし』
軽い。いつも通り。
龍凱は小さく息を吐いた。
「……一回だけな」
『はいはい』
通話が切れる。聞いていない返事。
視線をヘッドギアに戻す。プロチームのロゴ。
——最初から仕組まれていた、というわけだ。
「……まあいいか」
退屈よりはマシだ。
龍凱はヘッドギアを手に取る。
「やるか」
装着。
視界が落ちる。意識が沈む。
そのまま、世界が切り替わった。
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