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ぱちり、と目が醒める。
木造の質素な小屋の天井を見上げ、ウィリアムはぼんやりと物思いに耽る。
リオネルが庇護していたセリーヌを堕とした。
女王としての矜持もなく、ただただ甘やかされた王女に甘い色恋の味だけを与え、刺激的で背徳的な遊びを教え込んだ。
都合の悪いものから目を覆えば、彼女は自らウィリアムの体のいいお人形になってくれた。
ベルフェゴル公爵家に都合の良い人形と化したセリーヌをウィリアムの父は喜んだけれど、ウィリアム自身を誉めることはなかった。
(僕も結局は都合のいい人形だったものな)
陰鬱な気持ちに吐き気が込み上げる。
道具が褒められることなどないことは知っていたはずなのに、こんな気持ちを抱いた自分に失望した。
改めてまぶたを閉じようとして、ふと小屋に誰かが入ってくる気配がした。
振り返らなくてもわかる。クロだ。
「起きたか」
端的に確認を口にするクロは三角に組み上げた簡素な棒をふたつ手にしていた。
前に言っていた杖だろう。
彼はそれをウィリアムのベッドの横に立てかけるとウィリアムを介助して身を起こさせる。
「まずは立つ訓練から始めるといい」
そう告げる彼に何か言うことも億劫で、ウィリアムは視線を背け続ける。
クロから何かを問いただそうとしても、彼が何も言わないことは十分に思い知った。
ウィリアムは彼に促されるがままに杖を使って立つことを試みる。
けれども、これがなかなかうまくいかない。
クロに支えられてようやく久しぶりに立つことができた。
枕を投げた時にも思ったが療養生活で筋力がとことん衰えている。
クロの手を借りなければ、彼の支えがなければまともに立てないことが悔しかった。
だが、けれども今だけだ。
ウィリアムは奥歯を噛み締め、目の前で自分を支えるクロを睨みつける。
相変わらず凪の瞳が真っ向から醜く顔を歪める自分を映し出している。
「ーー……こんなものを与えれば、僕はお前の元から消えるぞ」
脅すようにそう告げるも、クロの顔色は変わらない。
「それがお前の望みなら」
平坦な返答がウィリアムの感情を逆撫でした。
甲斐甲斐しく世話を焼いておいて、あっさり手放せるとはどういう了見か。
こうなったら早くこの男の元から去ってやる。そして、向こうが惜しく思ったとしても二度と戻ってやるものか。
苛立ちのままクロを睨みつけ、ウィリアムはひそかに固く誓った。




