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「ーーねえ、聞いてらっしゃるの、ウィリアム」
ふとキンキンとした甲高い声にウィリアムははたと我に返る。
目の前にいるのは輝く金色の髪をした美少女。
クリクリとした愛らしいつぶらな蒼い瞳にウィリアムを映す少女はこの国の唯一の姫君。リオネル・ダルタンシアの婚約者。セリーヌ姫。
子供のようにぷうと膨れる彼女の姿にウィリアムはまた自分が夢を見ていることを知る。
「当然だとも、可愛いセリーヌ。またリオネルの奴にいじめられたんだね」
ウィリアムがそう口にすれば、セリーヌは「そうなの!」と甲高い声で応えた。
「もう、まったくイヤになるわ、あの男。いつもいつも『あれしろ、これしろ』って。わたくしは王女よ。わたくしに命令できる気でいるのかしら」
彼女の愚痴を聞きながら、ウィリアムは彼女を抱き締めて甘やかすように彼女の髪を優しく梳く。
甘く微笑む裏側で思うのは侮蔑だ。
まったくもって愚かな小娘だ。
彼女の婚約者であるリオネルの言葉は真っ当な諫言だ。
彼女が将来的に困らないように、恥をかかないように口を酸っぱくして敢えて耳の痛い言葉を言っている。
すべては彼女を思うが故。
それがどれほどの『愛』なのか。どれほど贅沢なことであるのか。
子供である彼女はまったくわからないでいる。
「彼の傲慢さには呆れてしまうね」
本心をすべて裏側に隠したまま、ウィリアムは甘く囁く。
「ねえ、ウィリアム。あの男と結婚するなんてぞっとするわ。どうにかできない?」
ウィリアムの腕の中からセリーヌがジッと自分を見上げてくる。
自らウィリアムの輝く星を手中にしておいて、あっさりと投げ捨てる姿に苛立ちを感じた。
それでもウィリアムは彼女にとびっきりの微笑みを見せる。
「もちろん。君が望むならあの男にとびきり痛い目を見せてやれるよ、可愛いセリーヌ」
この女はリオネルに愛された憎い女ではあるが、だからこそウィリアムが手中に収める価値がある。
この女を自分のような悪魔に好きにされる様をあの男が知ったらどう思うのか。
そのことを思うだけで背筋がゾクゾクとするような快感があった。
・ ・ ・ ・ ・
リオネル・ダルタンシアを陥れることは至極簡単だった。
真面目で実直な彼は色恋というものに、倫理観の欠如した人間の思考回路というものに疎い部分があった。
彼は容姿の高さから貴婦人や令嬢に言い寄られることも多く、けれども潔癖な彼はすべてを一蹴してセリーヌに対して操を立てていた。
その時点で優秀な王配に違いない。
だがそこにウィリアムが付け入る隙があった。
ウィリアムはリオネルに言い寄り、すげなく一蹴されて不満を燻らせた女をひとりひとり誑かした。
男に飢え、ウィリアムに夢中になるもの。
恥をかかされたことに憤っていたもの。
利を享受するべくベルフェゴル公爵家に恭順するもの。
動機は様々だったが、彼女たちはウィリアムが示す通りに嘘の証言をしてリオネルを貶めた。
こうしてリオネルはセリーヌと婚約破棄となり、辺境の地へと送られることになった。
その後はセリーヌのお気に入りとなっていたウィリアムがリオネルの後釜に座るだけだ。
「ウィリアム、ようやくあなたと結ばれることができるわ!」
快哉の声を上げるセリーヌを抱きしめ、ウィリアムは薄く微笑む。
遠く輝くあの星が悲しみに曇ることだけが、星を手にできない自分にとっての慰めだった。




