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とまぁ、私も西条も(?)来る試合に向けて意気込み今日も一日頑張るぞい、というわけだったのだけど……
「なんか俺たち完全にモブなんだけど……」
「そうね……しかももう決勝戦っていうね……」
万策尽きたー!ってこれはゲーム制作アニメではなくアニメ制作アニメの方だったかってそうじゃない!
さっき勢い余って言ってしまったけれど、改めて言っておこう。
驚くなかれ、決勝戦である。
決勝戦。つまりは優勝するチームを決める戦いだ。
しかも私たち二年一組は勝ち進んでいた。
お隣りさん、二年二組との、この決勝戦まで。
それも私たちペアが、一度も出場することなく……。
いや、別にさぼっていたとか、お金で勝利を買ったとか、そういうことをしていたわけじゃない。
そういうわけではなく、これはルールに問題があるのだ。
この球技大会のテニス種目における勝利条件及びルールに。
それは次の通り。
・試合は全てダブルス。
・三試合中二試合勝利でそのクラスの優勝。
・一試合は三ゲームで、二ゲーム先取で勝利。
・ゲーム獲得数が一対一になった場合は、三ゲーム目で先に7ポイント獲得したペアの勝ち。
・三ゲーム目のサーブの順番は、テニスのタイブレークのルールにのっとり、一ポイント目を、一ゲーム目にサーブを打ったチームが打ち、その後は二ポイント毎にサーブの権利が行き来する交代制。
・あくまで素人同士の対決ということで、サーブはチームメイトの得意な方が打ち続けてもいい。
・どちらかのクラスが先に二試合勝てば三試合目は行われない。
・その他ルールはテニスの基本的なルールに則る。
と、いうことで、幸か不幸か、チーム内に運動神経バリバリ最強No1が二人もいた私たちのチームは先に必ず二勝してしまうため、三番手である私西条ペア、あ、この響きいいな。もう一回言っておこう、私&西条ラブラブペアは本当に一度も試合に出ず、ここまで来てしまったというわけだ。
ちなみにその運動神経バリバリ最強ry)の二人とは、もちろん私の大親友こと日輪と麗優である。っておいおい神様、種族値の設定間違ってるぜ。なに顔も良くて特別な才能もあって、しかも運動神経抜群なんていう完璧超人二人も作っちゃってんの?製作陣、いや製作神、さっさと私のも直してくれよ。でないと私の鬼の手があの種族値モンスターを襲っちまうぜ?まぁ、ポ●モンはあくまでポケ●トモンスターであって妖怪ではないが。
「はぁ……」
ただいま試合に出ている日輪と麗優、そのペアの男子二人と私を除いた残り一人、つまり私とコート外後方のベンチで彼女らを応援している西条は、彼女らを眺めながらそう溜息を吐いて、やたら不満気な顔を作ると、
「というか、なんで俺たちは常に三番目なわけ」
「もしそれがほんとに分かってないんだったら私は本気でお前を殴るからな」
「……はい、すいません」
YOUの絶望的な運動神経のせいにきまってるYO!
むしろ私から麗優と日輪に提案したのだ。私たちが先に出場して負けてしまうと、残りの出場するペアのプレッシャーになってしまうかもしれないから、私たちは最後にしてくれと。
……まぁ、ただ単純に、下手に多く試合に出て、こいつの絶望的な運動神経を世間様にお披露目することでこいつがこの先町を歩けなくなってしまわないように、という私なりの配慮もあったのだけれど。ほんと感謝してほしい。どれくらいかと言えば、今度両親に会わせてくれるとか、まぁそれくらい。……流石にキモいか?
……しかし、まさか本当に一試合も出場することなく終わりそうになっているとは。
私の計画としては、まぁ三回戦あたりで麗優と日輪組のどちらかが負けて、記念試合的な感じで私たちが出て、あとはてきとうに楽しんで負けようという計画だったのだけれど(結局負けるんかい)おじゃんになってしまった。
はぁ……。『球技大会負けちゃったけど、でもいい思い出だったー』とか写真付きでインスタにあげられれば、結構バズりそうだったのになー。流石に1試合もチームに貢献しないで投稿するわけにもいくまい。……球技大会出場記念にあわよくば西条との初ツーショットも狙っていたのだが……。
まぁ、チームに迷惑をかけなかったという点を鑑みれば、これも悪くないか。それに私の本番は球技大会後とも言える。なんとかこいつからあの時の真実を聞き出し、その後互いの意見のすり合わせを行い、今後も良好な関係を継続していかなくては。なんかビジネスマンみてぇな目標だなおい。
と、まぁ、そんな風に私は思っていた。
西条の、次の台詞を聞くまでは。
「あれ、なんか危なくない?」
放課後のことを考え緊張感を募らせていた私とは正反対の、西条の緊張感のない声が隣から聞こえてきた。あん?おかしいって何?あんたの頭が?今更でしょーが。
「急に性格悪くなるのやめようよ。急に性格悪くなる性格って聞いたことないよ。何?またSNSが上手くいきそうになくて悩んでるの?」
「何で分かんだよ」
何でこいつはこういう時だけ聡いんだ。その賢さを少しは私の貴様に対する気持ちの方へ向けろ。あとちなみにSNS好きなのはLINEで喋った。ちなみにインスタの方は、アカバレすれば速やかに私は自殺を遂行するしかなくなるので教えていない。まぁこいつがLINE以外のSNSの類をやっていないのは既に特定済……じゃなかった、こいつ自身に聞いて知っていたので、そこらへんは大丈夫だろう。……なんだか本当に危ないのは西条の頭ではなく私のような気がするがまぁ気のせいだろう。
「じゃあ、何が危ないわけ」
「いや、ほら、試合」
「え?」
西条の指は試合が行われている前方2面の土のテニスコートの方を指していた。
左の、つまり日輪組の試合はたった今、相手の両チームの選手同士の握手が行われている。
日輪の表情を見る限り勝利したのだろう。
しかし、右側、麗優組の方のコート。
「あ……」
そのコートの審判台の、コートを挟んで正面。
そこには別クラスから派遣されてきた男子と、その彼が操作するスコアボードがある。
スコアボードに記されているゲーム数は一対一。つまり、同点で、今は第三ゲームの途中だ。
しかし、ゲーム数を記す隣の枠。
第三ゲームの獲得ポイントを示す枠。
その中の数字は、同点ではなかった。
その枠の中は、こうだった。
二年一組 1点。
二年二組 6点。
……うそおん。
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