第四事件 アンポンタンクソバカマヌケ自己中金髪ファッキンユダビッチ事件
初めは、ダン、とステッキで太鼓の端を乱暴に叩いたような、バレーボールがコートにぶつかる音。
今度はパシュン、と、ホースをピアニカ本体に差し込まないまま吹いたみたいな、ガットがシャトルをぶん殴る音。
遠くてよく聞こえないが、最後は、ガコン、と、間違ってシンバルの端と端をこすり合わせてしまったみたいな、ふざけた男子が肩車をして無理矢理バスケットゴールにダンクを決め込んだ音が耳内に侵入してきた。
総じてなんだか小学三年生の音楽発表会を聞いているような感じだ。いや、流石に小学三年生ならもっと上手いか。ちなみにダンクに興じていた男子どもは揃って教師達に、生徒指導室という名の籠に連行されていった。まさか籠球だけに、ボールだけではなく自分たちも籠にぶち込むとは。なんというフェアプレイ精神。競技へのリスペクトがすごい。
今日は月末。
つまり球技大会当日だ。
今は自分が試合に出るまでの空き時間。
自分たちのクラスの子達が出場しているバレー、バドミントン、バスケを同じテニス組の日輪と麗優と共に、体育館の端で応援というか、好きな番組が何もない時につけっぱなしにしているテレビみたいな感じで眺めている。
別に私達は全く以って応援になど行きたくなど無かったのだが、他クラスの人気の男子がバレーの試合に出るというので、なんとなく周りの空気に押されて行かざるを得なくなってしまった。ほんと、何で陽キャな女子って、普段男子のことなんてアウトオブ眼中~みたいに気取ってる奴らが多いのに、こういう行事ごとになると応援とか言ってしゃしゃりでるんだろう。そうして勘違いしてきた男子どもが見た目はちょろそうな日輪なんかに告白しにきたりするのだ。ちなみにその男子がどうなったかは……まぁ、近くに麗優がいたことから察してもらいたい。
……とまぁ、文句というか忌憚ない意見を言わせていただいたものの、私たちテニス組の試合は組の中でも最も遅い開始地点に位置しているので、つまりそれまではとにかく暇なわけで、スマホをいじれもしなければ読書もできない以上、こうでもしないと暇をつぶせないとなると、結果としては一緒だったような気もするのでそこまでおおっぴらに批判することもできない。
できることと言えばせいぜい、心の中で目の前の男子どもをジョジョ風に鼓舞することくらいだ。おらおらおらおらー!男子ーもっとはたらけー。でないと法律で裁けない以上、私が裁くことになっちまうぜ?俺が裁く!……なんでジョジョ風?まぁ好きだからいっか。ほら、西条と空条って名前似てるし。
「……………」
……ってちがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああう!
結局!
西条に!
一言も!
先輩にアドバイスもらったあの日から!
何も訊けなかったあああああああああああああああああああああああああああ!
全く以って何も訊けなかったああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
あんな感動的な話を聞かせもらった後なのに!
『私が決断するのに残りの休憩時間では多いくらいだった』
なんて凄いい感じで締めたはずなのに!何が俺が裁くだよ!裁かれるのはスタンドだけに立ち上がらなかった私だろうがあああああああああああ!
「……いやいや」
首を振る。落ち着け私。まだ諦めるような時間じゃない。そう、流石に私も何もしなかったわけじゃないのだ。
一応、先輩にアドバイスをもらった翌朝、学校ですぐに行動には移したのだ。さて、それじゃ、毎度恒例、その時の模様を私の内心からお届け。●原さんー、そらry)。
『あ、おはよ、西条』
『あ、獅子ヶ谷さん。おはよ』
『あのさ』
『うん』
『昨日はごめんね。変な態度取っちゃって。あれ、気にしないで』
『そっか。うん。分かった』
『それで、さ。謝った直後にこういうのは良くないのかもしれないけど、球技大会が終わってからでいいからさ。ちょっと時間取れない?訊きたいことがあるんだ。流石にそのころにはもうお姉さんの看病は必要ないでしょ?』
『あ、えっと、どうだろ』
『別に。軽くちょっと出かけたいだけだから。いいでしょ。ね?』
『でも』
『それに前言ったでしょ?私が西条の取材に付き合う以上、私の用事にも付き合ってもらうって。いいから来い。わかったな?』
『はい……』
とまぁ、こんな風に先輩のアドバイス通り、あくまで落ち着いて穏便に接することで(若干強引な場面があったかもしれないが)時間を作ってもらうことには成功したわけだ。
しかし、それ以降は特に何かこれと言って親密に会話を交わしたとかいうのはなく、つまりこの球技大会でのあいつとのダブルスが終わってしまえばいきなりあのことに触れないといけないということで、なんかもう、真冬にかけ湯をしないでいきなり露天風呂につかりに行くような感じだった。温泉だけに今から緊張で体がポカポカして仕方がない。……ギャグはさみぃー。つまらねぇー。髪をかきむしる。くっそう、なんで私ってばいっつもこうなんだ。温泉だけに地獄めぐりでもしてこいってか?
「ねーねー麗優ー。なんかななせんの様子が……」
「ポケ●ンが進化するときみたいに言わないの。放っておきなさい。いつもの心の病よ」
頭を抱えて呻く私に、お隣二人がなんか言っていた。というか麗優さん、心の病なんだとしたら私の扱い軽すぎませんかねぇ?
とまぁ、結局それからしばらくは、私たちは自クラスの選手たちを、コミケでリストバンド組を眺めるアーリーチケット組みたいな目でぼうっと見続けた。こんなところで、体力を使うのは流石にもったいない。球技大会とはいえ、記念すべき私と西条との初めての共同作業(?)なのだ。やるなら勝つまではいかなくとも、少なくとも楽しむぐらいはしたい。
ああ、ちなみにその西条と言えは、球技大会中は非日常故に様々な小説のネタになりそうなものが発生しそうということで、一人でいろんなところを回ると言っていた。先ほど練習相手も話し相手もおらず、仕方なく一人で壁相手にサーブをぶつけまくっていたあいつを見たような気がしたが、まぁ、それは気のせいだったんだろう。金髪で女の子みたいな可愛い顔立ちで、「……これはテニスだけにシングルスだから。俺はボッチじゃないから……」なんて呟いていたような気がしたが、きっとそれも気のせいだったんだろう。
…………。
……まぁ、みんな頑張ってるってことで!
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