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気分が泥沼に沈んでも、底なし沼にはまっても、やらないといけないもの、なーんだ!
仕事!
正解!正解したあなたには、なんとおおおおお…………お仕事をプレゼント!
わぁうれしい!
そのお仕事、一体何に使われますか?
そうですね、やっぱり無難に貯蓄ですかね。
いいですねー。やっぱり仕事っていつなくなるか分かりませんからねー。と、ここらでお時間です。悲しい!それではクイズタイムシャチク!まった来週ー!
……ダメだ。
腐りきった気分を少しでも一掃しようと思って楽しいことを考えるつもりだったのだが、意に反してとんでもない怪文が出来上がってしまった……。
なんだこの常軌を逸したダイアローグは。仕事をお金みたいに言うな。仕事はなくならない。永遠に増え続けるんだ。それと、クイズタイムシャチクて。まあ、全部私、獅子ヶ谷ななせの妄想の産物なのですが。
現在午後五時三十分。
今朝、西条と気まずい空気になってから結局、私はあいつと少しも言葉を交わすことなく、そして少しも授業に集中できずに(普段もそこまで真剣に聞いていないが)、半日を無為に過ごしてしまった。
放課後もそういう風にできれば良かったのだが、しかし、バイトともなれば、そういうわけにもいかない。
お賃金をいただいている以上、私の内心がどうあれ出勤しなくてはならず、よって、お手と言われれば前足を差し出す犬のごとき調教っぷりで、私の足もいつの間にか自然とこのバイト先の屋内型複合レジャー施設の廊下を踏んでいたというわけだ。
しかもこういう日に限って、普段の受付の仕事だけにとどまらず、やれ迷子の子のお世話やら、やれ備品の移動やら雑用が無限に増えていく。まるで線路の枕木を延々置いていっているいる気分。線路だけにあの歌的に例えるなら、しーごとは続ーくーよー、どーこまでーもーってやつだ。ダイスケ的にもオールオッケーではない。くそ、にしても、この荷物重たいな……って誰がお荷物な重たい女やねん!……大丈夫か、私。
「あっ」
と、またしてもそんなおまぬけさんなことを考えていたせいだろう。
まるで花金|仕事終わり飲み会後のサラリーマンの如き勢いで、運んでいた段ボールの中の備品を床に嘔吐してしまった。
ごろごろと床を這う、奇しくも壊れたテニスラケットやボールの数々。あーもう自分のまぬけさに吐き気がする。
「おーおー。派手にぶちまけたねー。どれ、おねぇさんが助けてあげよっか?」
と、しゃがんで、本当に吐瀉物を掃除するかのようにしかめ面でそれらを拾っていた私の頭上に、小さな影が差した。
見上げると、そこには年齢に見合わない童顔……いや、おっぱいで全然見えねぇ、助けられるどころか絶望が増したんだが。
とにかく、多分梅雨も吹き飛ばすほどまぶしい笑顔を浮かべているであろう、おっぱいの大きい小さい先輩。水面先輩が立っていた。
「……人は一人で勝手に助かるだけですよ。水面先輩」
「はっはー。相変わらず元気いいなぁ。ななせちゃんは。何かいいことでもあったのかい?」
ボールを拾う手が、一瞬止まった。
「……別に何もないですよ」
そう言ったものの、そんな私の挙動を、これでも市内の一流大学に通う水面先輩が見逃すわけもない。私が落とした備品をどさっとまとめて段ボール箱に放り込んでから、幼稚園の先生みたいにしゃがんで私と目線を合わせてきた。
「うーん。いいことも怪異事もないけれど、悪いことはあったみたいだね。どれ、この何でも知ってるおねーさんに話してごらんなさい」
「何でも知ってるんですか?」
「何でもは知らないわよ。知ってることだけ」
「どっちなんすか」
羽川さんと臥煙さんをミックスさせるな。一番混ぜたら危険な二人だろ。混ぜるな危険だろ。
……が、しかし、水面先輩に相談というのは実際のところありかもしれない。
先輩はほぼ第三者だから、西条のことを話したところでそれを広めるメリットもあまりないし、先輩がそんなつまらないことを広めるとも思えない。というか、そもそも先輩は、大半は海外に行っているので、その危険性はやっぱりほぼないと言っていい。なんだかそういうところも羽川さんっぽい。
「……じゃあ、休憩時間に」
「うん」
テニスボールを段ボール箱にしまい、蓋を閉めるのも面倒くさかったので、開けたまま、私は倉庫へ向かった。
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