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プロローグ

 プロローグ



 水平に並んだ窓達から差し込む、うららかな陽気。

 

 踊るような小鳥のさえずり。

 

 高校二年。

 

 新学年を迎えた緊張は既に解け、教室にはどこか間延びしたような、5月特有の例の空気が充満していた。

 

 いつもと変わらない、私、獅子ヶ谷(ししがや)ななせの、朝のホームルーム前のひと時だ。

 

 下手な魔術師より人を催眠状態に陥れるのが得意な、一限目の数学の授業の準備を終える。


 私は、グラウンドと都会の建物を一望できる、金持ちに売れば結構な額になるんじゃないかと思われる

四階教室窓際、二列目最後尾(さいこうび)の座席から差し込んでくる光に目を焼かれながら、コンクリートの海ことオーシャンビューを目に焼き付ける。


 もちろん、休日以外作動するベルトコンベアでもついているんじゃないかと思うくらい、普段家から(なか)ば強制的にこの学校には通っているわけなので、別に目に焼き付けるほどの風景ではないのかもしれないけれど、しかし、私はこの代り映えのしない、言ってしまえば、私の人間的価値と同じくらい平凡なこの景色が好きだった。


 変わらない、というのは、何も変化がない、ということだ。


 良いことも、そして悪いことも起こらない。


 それはこの激動の時代においてとりわけ珍しいことではないだろうか。


 ましてや一日一日が濃密な青春時代をば。


 なら、かみしめよう。


 平凡な一日を。


 愛そう。平和な一日を。


 こうして、私の、獅子ヶ谷ななせのありきたりだけど、大切な一日が今日も始ま――


「……やって殺すか……」


 ……始ま――


「飲み物に毒薬……いや、流石にありきたりか……証拠も残る」


 始ま――


「そうだ!体を死ぬほど分割してトイレに流せば!」


 ……そうだった。


 そう言えば一人いたのだった。


 平和で退屈な私の日常を侵略するドミネーターが。


 そいつは窓と、私の机の間の距離の中間地点、つまり私の隣、窓際一列目最後尾という座席界におけるゼウスのようなポジションに座し、平和に親でも殺されたような、どす黒い台詞(せりふ)を小さくぶつくさ吐いている。


 名前は――西条(さいじょう)こころ。


 物語は、こいつに私の平和で退屈な生活が奪われる所から始まる。


 四月しょっぱなから、つまり一か月近くも壊れたラジオみたいにさっきみたいな呪詛を『笑顔で』ぼやき続けている、この男子生徒に、私が話しかけるところから。




第18回前期、GA大賞二次選考突破作品です!


残念ながら落選してしまったため、供養のため、投稿させていただきました。


ご一読ありがとうございます。


よろしければ続きもご覧いただけますと幸いです!

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