52、復讐劇の幕開け
王都の中央広場。
朝靄を裂くように鐘の音が鳴り響く。
群衆のざわめきの中、アリアンヌはフードの奥で目を細めた。
「聞いたか?また貼られてたらしいぞ、宰相の悪事の告発文が!」
「まさか……本当に王妃陛下まで関わってるってのか?」
「馬鹿を言うな。そんなこと、口にしたら首が飛ぶ!」
噂が噂を呼び、民の声が波紋のように王都を包んでいく。
誰もその中心にいる少女が、ほんの数刻前に自らその文を貼ったとは知らない。
レジーナの横に立つココスが、少し息を弾ませながら言った。
「すごい……もう街の半分は騒ぎになってる。」
「これでいいの。」
レジーナは静かに呟く。
「“噂”は毒。だけど、同時に火薬にもなる。彼らが真実を欲する限り、私たちはそこに火をつければいい。」
「……でも」
ココスが眉をひそめる。
「グラビスはそう簡単に動かない。奴は“待つ”のが得意だ。後、コヌルが入ったばっかりのタイミングでこんなに動き出してしまうと、あちらも勘付くのでは?」
「うん。」
レジーナが淡々と答える。
「だから、こちらも“誘い”を仕掛けることにした。」
彼女は懐から封蝋の押された手紙を取り出した。
――王妃の印章。
「……まさか、それは」
「“本物”だよ。アリアンヌが昨夜、手に入れてくれたの。」
その瞬間、2人の間に一瞬の沈黙が流れた。
風が吹き抜け、ビラが一枚、空に舞い上がる。
レジーナは微かに笑った。
「宰相グラビスは、王妃からの“密書”を受け取る。
でも、その中には毒が隠されている。」
「毒……!?」
ココスが目を見開く。
「心配はいらないよ。命を奪うものじゃない。
ほんの少し“幻”を見せるだけ。」
「幻?」
「うん。」
レジーナの唇が妖しく弧を描いた。
「――王妃がまだ
民に愛されている
という、都合のいい幻をね。」
コヌルが低く笑う。
「まさか、王妃を狂わせるつもりか。」
「いいえ。狂うのは、彼女の方よ。」
ココスが、お手上げだというような顔をする。
「どういうことだ?
さっぱりわからん。教えてくれよ?」
「まだわからないの?
貴方それでもアリアンヌの専属諜報員?」
その言葉にココスが目をハッと丸くする。
次の瞬間、ココスの手がレジーナの首を掴んだ。
「それをどこで知った。」
レジーナはびっくりした。
だって、ココスの声が初めて聞くくらい低かったから。
「答えろ!!」
それでも、冷静に言葉を返す。
「怖いことしないでよ。
アリアンヌのことが気になってる誰かさん
に教えてもらったんだ。」
「何だと?」
その瞬間、教会の鐘が再び鳴り響く。
「もう時間だね、
私たちのチームワークがよかったら教えてあげる。」
ココスは、手の力を緩めた。
「いいよ。
乗った。」
そう言って、ふっと笑った。
アリアンヌの瞳が、まるで王の肖像画の中に眠る亡霊を見ているかのように静かに光った。
「――“華麗なる復讐劇”の幕を上げましょう。」




