46、ソフィーが来た
「……あ。」
小さな音とともに、食堂の入口で何かが転がった。
視線が一斉にそちらへ向く。
床に転がっていたのは、銀のスプーン。
「誰かいるの?」
アリアンヌが声を上げる。
その扉の影から、ゆっくりと一人の少女が現れた。
光を吸い込むような金髪に、灰色の瞳。
無表情で、まるで感情の波が一切ないような顔。
「……ソフィー?」
最初に声を出したのはレジーナだった。
彼女は椅子から立ち上がり、心配そうに駆け寄る。
「こんな時間にどうしたの? 今日は、もう入ってこれないはずだよ?」
「……落としたの。スプーン。」
ソフィーは淡々と答える。
「そ、それだけで夜の食堂に!?」
レジーナが素で驚くと、アリアンヌが肩をすくめた。
「まぁ、彼女らしくていいじゃない。」
「私のことを知ってるの?
私は貴方達のことを知らないんだけれど。」
レオが怪しげにソフィーに近づく。
「誰だ?この子は」
ココスも苦笑しながら近づく。
「レオ、この少女はソフィー。
2年下の私の後輩?だよ」
寡黙で、冷静で、いつもどこか人と距離を取っている。
まるで感情を隠して生きているような性格。
アリアンヌの目には、ソフィーがそのように見えていた。
「また調べもの?」
ココスの問いに、ソフィーの手が一瞬止まった。
「……違う。今日は、ただ来ただけ。」
その返事は、いつものように短く、そして何かを隠していた。
⸻
「ちょうどいいじゃん。今、勉強会してるの。」
レジーナが笑顔で言う。
「ほら、座ってよ。ソフィーも一緒にやろ?」
「……私は。」
ソフィーが断ろうとした瞬間、アリアンヌが横から口を挟んだ。
「いいから座りなさい。どうせ部屋でも一人でしょ?」
その口調は少し強引だったが、どこか優しい。
ソフィーは一瞬だけレジーナとアリアンヌを見つめ、それからため息をついて席に着いた。
「……10分だけ。」
「出た、ソフィーの“10分ルール”」
レジーナが笑うと、マルクも苦笑する。
「つまり、砂時計が落ちきるまでってことか。」
アリアンヌが頷き、砂時計をくるりと回した。
⸻
静かな夜の食堂に、鉛筆の音だけが響く。
だがその中で、誰よりも早く問題を解いていたのは――ソフィーだった。
「……早いな。」
レオが覗き込むと、ソフィーは淡々と答える。
「これくらい、基本。」
「うわ、マジで全部正解だ……」
ココスが苦笑する。
「なんなんだこいつは……」
ソフィーは反応もせず、ただ次のページを開いた。
やがて、砂時計の砂が落ちきる頃。
その中で、ソフィーだけは表情を変えずに、ぽつりと呟いた。
「……一緒に、っていいね。」
それは、誰に向けたわけでもない小さな言葉。
けれどレジーナは気づいた。
彼女の声が、ほんのわずかに揺れていたことに。
ココスの口調は特定の人といるときだけ変化します。みんなといる時は、子供って感じだけど、公式の場では眼鏡をかけて低い声で喋ります。




