11、バシャーン(ワインをかけられる音)
軽やかな音楽がホールに満ちる中、レジーナとマルクは優雅に舞っていた。
その姿に、視線も、嫉妬も、憧れも、すべてが集中している。
だが――。
舞曲が終わり、二人が礼を交わした瞬間だった。
一人の令嬢が近づき、笑みを浮かべながら、わざとらしくワイングラスを傾けた。ザラだ。
真紅の液体が、レジーナのドレスの胸元に音もなくこぼれ落ちる。
会場が静まり返った。
「まあ、ごめんなさい。手がすべっちゃって
でも、ちょうどよかったかしら。ご存じなくって?そのすらっとしたドレス、もう時代遅れですの。最近の流行りはこのクリノリンドレスでしてよ。」
ザラの口元には、明らかな嘲笑。
レジーナは一歩も動かず、ただゆっくりと視線を下ろす。
白い仮面に染みた赤――まるで、薔薇の花びらのよう。
そして、顔を上げた。
その瞳には一切の怒りも、狼狽もなかった。
むしろ、氷のような静けさと、優雅さがあった。
この舞踏会の準備中、メイクをされていたレジーナはアリアンヌにとあることを教わっていた。
「レジーナ、あなたが今着ているドレスは既に流行 っていないドレスなの。だから、絶対何かクレーム をつけてくる人がいるはず。でもね、そういう人が いたらこう言ってやりなさい。」
レジーナは、微笑みながら言った。
「流行は時の波。ファッションはその上の船。」
その声は、柔らかく、それでいて鋭い刃のようだった。
「長い時を生きてきたファッションは、どれだけ世間に出回っている流行にも衰えはしない。あなたのその服も来週には忘れられるでしょう。でも、今私がきているこの服をあなたは永遠に覚えていることだろう。」
令嬢の笑みが凍りつく。
周囲の誰もが息を呑み、誰一人として笑えなかった。
レジーナは、汚れたドレスのまま、堂々と踵を返す。
「私の方が一枚上手だったようですね。」
その背中は、まるで王女のように美しく、強かった。
王妃が途中で口を出してきた。
「バサリサ子爵令嬢、アンティー侯爵令嬢、どちらも争いをやめなさい。今日は舞踏会です。楽しい雰囲気を汚さないように気おつけなさい。」
レジーナが会場を出る時最後に見えたのは、隅で顔を隠して大爆笑しているアリアンヌだった。
ワインをかけられた時のレジーナの心情
(すごい!アリアンヌ様のいう通りのことが起きた!)
題名が適当になってしまうことをお詫びします